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第14章.誰そ彼月1
駅前のロータリーに車を停めて、薫は樹の姿を探した。駅に着いてすぐ、ぐるっとひと回りしてみたが、樹らしい姿は見つからなかった。
薫は、駅前全体が見渡せる場所に車を停めた。樹は、友達の家がこの駅の近くだと言っていたから、電車で来るわけじゃないんだろう。そう思って、通りの方をずっと見ていたが、なかなか現れない。
(……ん……?)
20分ほど待って、痺れを切らした薫が、もう1度樹に確認しようと、PHSをポケットから取り出した時、一台のセダンが大通りからやってきて、ロータリーに入ってすぐの所に停まった。樹が車でここに来るとは思っていなかったから、ドアが開いて、助手席から降りてきた樹の姿に、薫は驚いて目を凝らした。
(……あれは……樹か……?)
向こうの車から、薫の車は植え込みの陰になって見えないようだが、薫からは向こうの車の様子はよく見える。
いったん顔を出した樹は、車の中から呼び止められたのか、くるっと後ろを振り返り、屈んで中を覗き込んだ。二言三言何か交わした後、樹は車から顔を出し、伸び上がって辺りをぐるっと見回してから、また屈み込んで中を覗き込む。もちろん、離れている薫には、樹と相手の会話は聞こえないが、表情や仕草から、かなり親しげな様子なのが感じられた。
(……お義母さんか……?)
じっと目を凝らして運転席の人間を確認してみたが、フロントガラスが反射していてよく見えない。しばらくやり取りした後、樹は車から完全に出てドアを閉めた。車はゆっくりと動き出し、ロータリーを回って薫の側を通り過ぎた。窓が開いていて、ちらっとだが、運転手の横顔が見えた。
(……男だ。まだ若い、俺と同じぐらいの年の)
ノーブルな感じのえらく整った顔立ちの青年だ。その顔に見覚えはなかった。
どういうことだろう。あれが、樹がよく泊めてもらうと言っていた友達なんだろうか。
樹の口ぶりから、てっきり同級生の友達だと、勝手にイメージしていた。年上の男に車で送ってもらって来るなんて、まったく予想外で、薫は唖然としてしまった。
(……なんだか酷くもやもやする。
というか、イライラする)
薫は車をゆっくりとスタートさせた。ぐるっとひと回りして、駅の側の脇道からいったん通りに出て、もう1度大通りから駅に戻った。
樹は、辺りをきょろきょろ見回しながら、ロータリーの歩道を歩いていた。薫はそのすぐ後ろまで近づくと、車を停めてクラクションを鳴らした。
樹がはっとしたように振り返る。フロントガラス越しに目が合った。10日ぶりに会った美しい弟は、薫の顔を見ると、少し嬉しそうに、ぎこちなく微笑んだ。
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