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誰そ彼月4
「……兄さん……?」
樹が思わず声をかけると、薫ははっとしたように我に返って、スプーンをお皿に放り出した。そのまま、ずいっと樹に寄ってくる。
「樹~」
そう叫んで樹の身体に抱きついた。
(……!?)
横から首のところにがばっと抱きつかれて、樹は頭の中が真っ白になった。
「おまえは、本当にいい子だな。俺はおまえが大好きだぞ」
「…………」
(……え……。え?えーーー?!)
薫は、ピキピキに固まってしまった樹にお構いなしで、樹の首に顔を埋めてスリスリしてくる。
樹はもう、大パニックだ。
(……なっ……なに?何が起こってんの?)
薫は多分酔ってはいない。
さっき車の運転をしていたし、ご飯の時もビールは飲んでいないし、お酒の匂いなんか全然しないし。
(……でも、こんな風に抱きついてきて、僕のこと、だ……だ……大好き……とか……言ってる。うわ……。僕、夢見てるのかな。……うん。きっとそうだ)
これは僕の都合のいい夢、なんだよね。
樹は自分のほっぺたをつねってみたかったが、薫にがしっと抱き締められていて、身動きが出来ない。
(……どうしよう。心臓がドキドキし過ぎて、口から飛び出しちゃいそうだ。苦しい。嬉しい。もうなんだかよく分かんない)
「……っにぃ……さ……」
「おまえがいてくれてよかったよ。おまえの作る飯は最高だ」
(……飯……? そうなの? この炒飯、そんなに……お美味しかったんだ?)
我ながら上手く作れたとは思っていたが、こんな風に抱きついてスリスリしてくれるくらい、美味かったのだろうか?
薫の息が首筋にかかって、擽ったい。
何か、いい匂いがする。
なんだろう、香水? コロン?
(……あったかいな。義兄さんの腕。僕いま、幸せ過ぎて溶けちゃいそうだ。
っていうか、そんなとこで顔スリスリしないで……。
擽ったいっていうより……なんか……ちょっとヤバい……。
ゾワゾワする。
いや、ムズムズ……?)
「……ね、にぃ……さ……」
「俺な、今日ちょっと嫌なことがあって、落ち込んでたんだよ。だからおまえに、無性に会いたくなった」
(……あ。やっぱり。
義兄さん、元気なかったもん。顔色も悪かったし。
そっか……嫌なこと、あったんだ。義兄さんでも落ち込むこと、あるんだ……)
薫の手がもぞもぞ動いて、樹の頭をなでなでしてくる。
「おまえが料理してるの見てたら、ちょっと元気になった。美味い炒飯食って、もっと浮上した。おまえの作る飯は、優しいよな。死んだ母さんが作ってくれた飯みたいだ」
耳元で薫が独り言みたいに呟いている。
(……どうしよ。なんか頭、ぼーっとしてきた。義兄さんの声、気持ちいい。義兄さんの体温も気持ちいい)
薫が、耳元ではぁ~っと大きなため息をついた。途端に擽ったいっていうより、もっと強烈なムズムズが、樹の背中を走り抜けていった。
(……うわ。なにこれ。
ヤバいっ……てか、マズい)
この感覚には覚えがある。またあの病気が始まったのだ。
薫に触れられたり、薫のことを考えたりすると、身体がむずむずしてきて、熱くなってきて……アソコが大きくなってしまう。
(……やっ。ダメだってば。今はダメだよ。こんな状態でおっきくなったら、義兄さんに知られちゃう……っ)
樹は焦ってもじもじし始めた。今日は、いつものピッタリしたジーンズじゃなくて、ゆったりした薄めの生地のパンツを穿いてる。締め付けられなくて楽だけど、義兄が下に目を向けたら、反応しているのがバレてしまう。
「……兄さん……っちょ……と、はな」
樹がもがくと、薫は腕をゆるめて、
「ああ、悪い、苦しかったよな」
そう言って、手を離してくれるどころか、樹の頭をぐいっと抱き寄せた。勢いでぽすんと薫の胸に顔を埋める体勢になって、樹は息を飲んだ。
「あぁいいな、なんかおまえ、抱き枕みたいだ。この体勢、妙に落ち着く」
(……~~~っ)
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