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誰そ彼月6

薫の言葉に、樹は大きな目を怒ったようにきゅっと歪めて 「別につまんなくない。俺は、兄さんのこと、否定しない。ずっと好きで、いてあげる」 「はは。そうか。樹は俺のことずっと好きでいてくれるか」 怒った顔のまま、こくんと頷く樹に、薫はなんだか嬉しくなって、樹の頭をぎゅっと抱き締めた。 「っ。兄さん、苦しいって」 「ああ、そうだな。悪かった」 じたばたする樹の頭から手を離すと、樹は真っ赤な顔で薫を睨みつけて 「炒飯、もう食わないの」 「いや。食うよ」 樹は薫の腕から逃れ出て、またもくもくと食べ始めた。薫も横に並んだまま、自分の皿を引き寄せる。もうすっかり冷めてしまった炒飯は、それでも樹の優しさが伝わる美味しさだった。 樹の作った炒飯を、美味い美味いと平らげて、薫は満足そうに机に向かって勉強を始めた。 樹はベッドの上に寝転んで、薫が図書館で借りてきてくれた、小説や雑誌を読んで過ごしている。 どこかに遊びに連れて行く時もあるが、アパートに来た時は、樹はいつもそんな風に過ごす。最初は、樹が退屈なんじゃないかと気にしてばかりいた薫も、樹がこういう過ごし方を気に入っているのだと納得したのか、お互いに自分のやりたいことをするのが、ごく普通になっていた。 樹はいつもと変わらない態度を装っていたが、内心はずっとドキドキしていた。薫にあんな風に抱き締められて、平気でいられるはずがないのだ。 薫の滅入った気持ちが、少しでも良くなってくれたのは嬉しいが、おかげで今度は、樹の方が切なくなってしまった。 目の前の本に集中しようと頑張っても、つい薫の後ろ姿に目がいってしまう。どこを見ていいのか分からない位、近い距離にあった薫の優しい笑顔。思い出すとなんだか頭がぼーっとしてしまう。 樹は本を持ったまま寝返りをうって、窓の方を向いた。 その時、不意に樹のズボンのポケットから、メロディが流れた。しんとしていた部屋の中に、それは大袈裟な位大きな音で鳴り響いて、樹はびっくりして飛び起きた。 薫も驚いた顔で振り返る。 樹は慌ててポケットからPHSを取り出した。賑やかなメロディが電話の着信を告げてる。 かけてきたのは月城だった。樹は急いで電話に出た。 「はい」 『あ。樹くん?……今ちょっといいかい?』 樹は焦って、ちらっと薫の方を見た。薫はまだちょっと驚いたような顔して、こちらをじっと見ている。 (……なんで、こんな時に電話、かけてくるんだよ) 樹は少しイラッとしながら、小声で答えた。 「なに?」 「邪魔してごめんね。巧さんが、家に行ったら居なかったって、君のこと探してるみたいだから。一応、知らせておこうと思ってね」 樹は叔父の名前にどきっとして、慌てて薫から顔を背けた。 「わかった。僕のいる場所、言わないで」 『今夜はお義兄さんの所に泊まるの? だったら、僕が言わなくても、君のお母さんから伝わっちゃうと思うけど』 「……友達のとこにいることにするし。だから月城さんは何も言わないで」 『……わかった。じゃあね』 電話は唐突に切れた。 樹はPHSを耳から離して、画面を見つめた。 (……叔父さんが……僕のこと探してる……。どうしよう……) さっき義兄のことを考えていた時とは全然違う、ものすごく嫌なドキドキに、樹は息が苦しくなってきた。

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