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誰そ彼月11

「なあ、樹。ちょっと……聞いてもいいか? おまえが男の人が好きだって、思うようになったのはいつからだ?」 遠慮がちな薫の問いかけ。樹はシャツの裾をぎゅっと握り締めて、恐る恐る薫を見た。 (……いつから……? そう。いつからだろ。僕が……男の人を好きだって思ったのは……) あの日、自暴自棄になって、このアパートを訪ねた。冷たくされると思っていた義兄に、思いがけず優しくされて。 (……あの日から僕は、義兄さんのことが……) 「……わっ……分かんないよ。そんなの……っ」 「なあ、樹。おまえはまだ中学生だろう? 異性に興味を持つのが、ちょっと遅いだけかもしれないよな」 穏やかに話す薫と目が合った。すごく優しい目だ。樹の心臓がどきんっと跳ねた。 「おまえぐらいの年頃だとな、女の子といるより、男同士の方が一緒にいて楽しいって時期があるんだ。おまえは線の細い綺麗な顔してるから、同性にそれっぽいこと言われることも多いんじゃないか? だから……」 優しく微笑む薫の口から出る言葉は、すごく気遣ってくれているのが分かる。 でもそれは、今の自分には何の慰めにも救いにもならないのだ。 「思い込んでるだけってことも、あるんじゃないかな。おかしなヤツに変なことされて、それで、余計に勘違いしているだけかもしれないよな」 一生懸命言葉を選びながら、話しかけてくれる薫の目を見ているのが辛くて、樹は目を伏せた。 (……うん。そうだよね。勘違い……だったらよかったんだ。義兄さんの言うように、ただの思い込みだけなら) 自分の身体が、いつから病気になってしまったのかは分からない。それが叔父に変なことをされたせいなのかどうかも。 ただ、ひとつだけ分かってることがある。自分が義兄のことを好きだってこと。女の子が恋をするみたいに、義兄に恋をしているということ。それはきっと勘違いでも思い込みでもない。 義兄を見るだけでドキドキする。触れてみたいと思う。キス……したい。抱き締められたい。そして……叔父にされるみたいなことを、義兄にされたいと思う。 そういうのを想像しただけで、身体が熱くなって変な気持ちになって……勃起してしまう。 普通は女の子のことを考えてそうなるのだと、本には書いてあった。でも義兄のことを考えてそうなってしまうのだ。 だからこの想いは……絶対に勘違いなんかじゃない。 (……でも……義兄さんは、普通に女の人が好きだから。僕のこと、どんなに気遣ってくれても、僕のこの気持ちはきっと……理解出来ないんだよね) 樹は心の中の苦しい気持ちを、ぎゅうっと押し殺した。 「勘違い……なのかな。俺、思い込んでる、だけかな?」 必死の思いで、義兄が安心してくれそうな言葉を絞り出す。薫はほっとしたように笑ってくれた。 「多分な。おまえはまだ子供だし、いろいろな経験も浅いだろう? 今そうだと決めつけるのは、ちょっと早いんじゃないかと思うぞ」 「そっか……。うん。そうだよね」 「ただ、おまえに変なことしようとしたヤツ。俺はそいつらを許せない。おまえがその話をするのが辛いのはよく分かるよ。でも、どこでどんなヤツに何をされたのか、兄さんに話してくれないか?」 樹はズキズキと痛む胸をそっと押さえて、俯いたまま首を横に振った。 「やだ。それは俺、言いたくない」 「や、でもな、樹」 「月城さんが、そのことはちゃんとしてくれるって。もうそんな目に遭わないように、考えてくれてるんだって言ってた。だから、もういいよ、兄さん」 「……っ」 樹の言葉を聞いた瞬間、薫は頭を横からガンっと殴られたような気がした。樹はこちらを見ようともせず、完全にそっぽを向いている。 (……その月城って誰だよ。そいつのことは頼れても、俺には話したくないっていうのか?) さっき、必死の思いで抑え込んだ、もやもやとした嫌な気持ちが、また胸の中に広がっていく。突然冴香に拒絶され、弟の樹にまで壁を作られた。どちらも自分にとって、大切な存在だったのに。 (……ナンダヨ、ソレ。オレハ、ヒツヨウナイッテ、コトナノカ?)

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