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碧い兎2
(……ごめんなさい。義兄さん。僕、義兄さんにだけは話せないんだ。ほんとのこと)
義兄がものすごく気を遣ってくれているのは分かっている。心から心配してくれているのも。それでも、絶対に、言いたくない。
樹はそっと深呼吸して、気持ちを落ち着けた。
「別に、理由なんか、ないし」
(……良かった。声、震えてない)
「あの家にいるの、つまんないだけ。お義父さんも母さんも、細かいこといろいろうるさいし、友達のとこは、親が外国行ってて、おばあちゃんしかいないから、うるさいこと言ってこないしさ」
樹はちらっと薫の方を見た。薫は心配そうな顔してる。
「兄さんには分かんないかもしれないけどさ、あの家、俺、居心地悪いんだよね。俺って義父さんにとっては、やっぱ再婚相手の連れ子じゃん? すっごい気を遣うし、いろいろと、めんどくさいんだ」
樹の言葉に薫は、哀しそうに顔を顰めた。
(……ああ。嫌だな。義兄さんにそんな顔させたくない)
「……そうか……。まあ、普通に考えたら、そうだろうな。俺がおまえの立場だったとしても、新しい家に馴染むっていうのは、正直しんどいと思うよ。
……うん……そうか、そうだよな。ちょっと想像してみれば、分かることだったな」
薫は何回も頷きながら、独り言みたいに呟いている。
樹は内心ほっとした。もっといろんなことを、根掘り葉掘り聞かれると思っていたが、素直な義兄は、これで納得してくれるのかも……。
「樹。おまえ、月城のこと、恋人だって言ったよな。あいつのことが、そんなに好きか?」
(……っ)
すっかり油断していた樹は、薫の口から出た次の質問に、びっくりして固まった。
(……うわ。次はそっちの質問?……えっと……)
「……それは……。言いたくない。プライバシーの侵害じゃん」
樹が怒った顔をしてそう言うと、薫は何故か、どこかが痛いような顔になった。
「う……。そ、そうか。まあ、そうだよな」
「うん。そうだよ」
薫は困った顔でしばらく黙って考え込んでいたが、ふと目をあげて
「だけどな、樹。おまえはまだ義務教育の子どもだろう。いくら居心地が悪くても、家出して夜の街をうろついてたりしたら、どんなヤツに何されるか分からないんだ。事件や事故に巻き込まれる可能性だってある。
俺がこんなこと言うと、おまえきっとうるさいって思うのかもしれないけどな。兄さんはやっぱり、おまえのことが心配だ。放っておけないんだよ」
(……や。出来れば、放っておいて欲しいんだけど)
「とにかく樹。あの月城って男には、もう会うな」
(……え……?)
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