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碧い兎5
(……僕、今、義兄さんに、抱き締められてるんだ……。
なに……。なんだろ、これって。
どうして……)
樹の頭の中は、のぼせたみたいに、ぽーっとなっていた。
さっき薫が何か言ってた気がする。
(……そうだ。月城さんにもう会うなって。
でも、それは無理だよ。叔父さんに呼び出されたら、月城さんにも会うことになっちゃうし。
あとそれから、月城さんとはもう別れろって。
でもそれも無理。だって別れるも何も、僕は月城さんと付き合ったりしてないんだし。
それから……寂しいなら俺に会いに来いって。月城さんの代わりに、恋人になってやるって……。
………え……?
代わりに……恋人に……?
え?……恋人……?……誰が?
…………義兄さんが?!)
樹は慌ててもがいて、薫の腕の中から、何とか頭だけ出した。薫は逃がさないというように、更に樹をぎゅむっと抱き締める。
じたばたして、必死で顔をあげると、なんだか辛そうな顔している薫と、ばっちり目が合った。
「……っ」
樹が急に、もぞもぞともがき出して、ひょこっと顔をあげた。
大きな目を更にまん丸に見開いて、見上げてくる。
(……どきっとした。なんだろう。この可愛い生き物は)
いや、樹がかなり綺麗な顔しているのは、もちろん知っているのだ。でも今、腕の中にいる樹のあまりの可愛らしさに、ちょっとドギマギしている自分がいる。
(……なんだ? この胸が苦しくなるような感じは)
「……樹……」
「兄さん、さっき、何て言った?」
「……え……?」
「月城さんの代わりに、俺の恋人になるって、言ったよね?」
大きな目で食い入るように見つめられて、薫は金縛りにあったように、目を逸らすことも出来ない。綺麗な瞳に、吸い込まれそうだ。
「聞き間違いじゃ、ないよね? 兄さん、さっきそう言ったよね?」
「あ、ああ……そう、だな。俺は、そう言った……よな」
(……なんでこんなにドキドキする? 顔が……近すぎるからか?)
薫の答えをきいた途端、樹の綺麗な形の眉が、きゅっと八の字に寄った。
「そんな、出来もしないこと、簡単に言うんだ? なんで?
兄さんが、月城さんの代わりに俺の恋人になるなんて、無理に決まってんじゃんっ」
きつい口調で叫ぶ樹の顔に、薫はぼんやりと見とれていた。
(……ああ……怒った顔も綺麗なんだな、こいつは)
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