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第18章.恋の予感1

「兄さん、なに……?」 怪訝そうな樹の声で、薫ははっと我に返った。視線を感じて訝しく思ったのだろう。 「ん? ……ああ、いや、何でもないぞ」 薫は樹の白い項に残る紅から、慌てて目を逸らした。 樹は不思議そうに首を傾げたが、すぐに読んでいる本に視線を落とす。 「なあ、樹。明日、早起きして弁当でも作って、車でちょっと出掛けないか?」 樹がまた顔を上げる。そのあどけない大きな目が、何故かひどく眩しく感じて、薫は微妙に視線をズラした。 「……出掛けるってどこに?」 「おまえの行きたい所だ。前に行った遊園地でもいいけどな」 「……遊園地……」 ぼそっと呟いて眉を顰める樹の顔が目の端に映る。薫はちょっと慌てて 「嫌か? だったら他の場所でもいいんだ。どこか伸び伸びと遊べるところで、兄さんとデートしよう」 樹が驚いたように目を見開き、こちらをまじまじと見つめる。 (……う……。唐突だったか? デートって言い方は変だったのか?) 妙にドキドキして、薫が内心焦っていると、樹は首を傾げながら少し考えて 「うん。俺、どこでもいいよ。兄さんとデート出来るなら」 「そ……そうか。じゃあ、こないだの遊園地の隣にある動物園はどうだ? おまえ、あそこ行ったことあるか?」 途端に、樹の目がきらきらと輝いた。 「……動物園……。小学校の遠足で、地元の小さいとこなら行ったことあるけど」 「あそこは県内で一番大きいからな。珍しい動物もいっぱいいるぞ」 「……っ行きたい」 「OK。じゃあ、今夜は早めに風呂入って寝るか」 薫が風呂場に行こうとするより先に、樹は立ち上がって 「俺、風呂、洗ってくる」 すたすたと部屋を出て行った。 樹が部屋からいなくなると、薫は思わずため息をついた。さっき変なことを考えていたせいで、意識し過ぎて挙動不審だ。 (……恋……。俺が樹に恋……?) いやいや、きっと思い過しだ。 あいつは8つも下の弟なんだぞ? そう、男の子なのだ。 自分の性癖はいたってノーマルで、恋愛対象は異性だけの……はずで。今まで男を好きになったことなんかないのだ。 ……といっても、過去の恋愛経験は冴香だけなのだが。 (……自覚してなかっただけで、俺は男もいけるのか?) 昼間の樹との濃厚なキスを、思い出してみる。子どもの、しかも男の子相手とは到底思えない、妙にセクシャルなキスだった。その後キスマークを夢中でつけている時も、冴香との行為以上に昂っていたような気がする。 (……おいおい……だめだろう) 薫はもう1度大きく息を吐き出し、頭を抱えた。 (……冴香に振られたせいで、俺は混乱してるのか? いくら何でも弟に欲情するってのは……痛すぎる) とにかく、これ以上バカな真似をしないように、自制するぞ。 樹は可愛い弟だ。うん、それだけなんだ。 薫は必死に自分に言い聞かせながら、樹との甘い時間の記憶を、頭から振り払った。

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