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恋の予感5

結局、冴香に言われたことを、樹は薫に話せなかった。吹っ切れたと明るく笑う薫に、何て切り出せばいいのか分からない。 (……ううん。ほんとは、僕は狡いこと考えてる。義兄さんがこのまま冴香さんと上手くいかなくなれば、ずっと義兄さんを独占出来る。義兄さんの笑顔も優しい言葉もあったかい手も、僕だけのものに出来る。そんな風に……思っちゃったんだ) 薫は、台所で鶏肉の下拵えを興味津々に手伝ってくれて、その後、順番にお風呂に入った。 お風呂場の壁の鏡で、薫につけられた紅い跡を見て、そのときのことを思い出してむずむずしていたら、薫がいきなり風呂場を覗き込んで、湯加減どうだ? と聞いてきた。樹がびっくりして、思わず風呂の湯をかけてしまったら、慌てて逃げていったけれど。 (……もう……義兄さんって無邪気過ぎて心臓に悪いことばっかりする) 樹はしばらくドキドキとむずむずがおさまらなくて、すごく困ってしまった。 薫が風呂からあがると、樹は寝間着代わりのTシャツとショートパンツを着て、ソファーで丸くなってうたた寝をしていた。つやつやの頬に、長い睫毛。洗って乾かしたばかりの髪の毛は、ほわほわと柔らかそうで、寝顔を見ていると普段よりいっそう幼く見える。 (……可愛いよな……。本当に仔猫みたいだ。こうして見てるだけで心が和む) こういう慈しむような愛しさの感情を、自分は知らなかった。樹に出逢うまでは。 (……ギャップあり過ぎなんだよ、おまえは) サイズの大きなTシャツは樹の肩からずり落ちていて、白い肌に散る紅い刻印が丸見えだ。目の前であどけなく眠りこけている少年の、やけに大人びた色っぽい表情を思い出してしまって、薫は慌てて目を逸らした。 「おい、樹。こんなとこで寝てると風邪をひくぞ」 「……んぅ……」 そっと揺り起こすと、樹はむずかるような顔をして、のろのろと両手を伸ばした。 (……寝ぼけてるな。抱っこのおねだりか?) 薫は苦笑しながら、樹の脇に手を伸ばし、細い身体を抱き起こした。 「ベッドに行くぞ」 耳元で囁くと、樹は擽ったそうに首を竦めて、ぎゅっと抱きついてきた。 薫は樹を抱えてベッドに連れていくと、隣に一緒に横になった。むにゃむにゃ言っている樹を抱き締める。自分の腕にすっぽりとおさまる小さな身体の温もりに、また何とも言い難い愛しさが込み上げた。 (……異性に対する恋愛感情とは、また別物なんだろうが。俺はどうやらこいつを好き過ぎるみたいだな) 薫は樹の髪をそっと撫でると、妙にほっとした気分で目を閉じた。

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