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想いの行く先6
大学とアパートとバイト先を忙しく行き来しながら、薫は樹からの電話を心待ちにしていた。平日は樹も学校があるから、多分かけては来ないだろう。そう分かってはいたが、もしかしたらと思って、日に何度もPHSの着信通知を確認する。
結局、金曜日まで連絡は来なかった。
金曜日のバイト帰り、薫はとうとう待ちきれなくなって、自分から樹の携帯に電話してみた。
呼び出し音を10回きいてから、薫はいったん電話を切り、もう1度かけ直そうとしたら、着信音が鳴った。
薫はどきっとして、慌ててピッチの画面を確認した。
ー樹の電話番号だ。
「もしもし?」
慌てて出た薫の呼びかけに、少しの沈黙の後、ごそごそと音がして
「……兄さん……?」
くぐもった樹の声。
「ああ、俺だ。今、電話、大丈夫か?」
「……うん」
「バイトが終わってこれから帰るんだ。おまえ、今週末は何か予定があるのか?」
「……ううん。何も、ないよ」
「じゃあ、また俺のアパートに泊まりに来いよ」
「……うん」
相変わらずぶっきらぼうな樹の返事に、薫の頬が思わずゆるむ。
「そうか。なら、迎えに行ってやるよ。今、家か?」
薫が勢い込んでそう言うと、樹はしばらく口ごもっていたが
「……今……兄さんの、部屋の前」
「え?」
「アパートの、部屋の前に、いる」
樹の意外な返事に、一瞬理解するのに時間がかかった。
「え? おまえ今、俺の部屋の前にいるのか?」
「……うん」
「なんだよ。連絡くれれば迎えに行ってやったのに。よし、分かった。ちょっと待ってろよ。兄さんすぐに帰るからな」
「……うん」
薫は電話を切ると、車を発進させた。バイト先の駐車場を出て真っ直ぐにアパートに向かう。
今週はゼミのレポートの提出やバイトのスケジュールがキツくて、実はかなり疲れていたのだが、樹に会えると分かった途端に、疲れが吹っ飛んだ。
(……現金だよなぁ……俺)
なんだか妙に浮かれた気分で、薫は帰路を急いだ。
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