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月夜の秘めごと9※
「ほーら、どうした? それで終わりか?そんなもんじゃ、俺は全然そそられないぞ?」
巧は残酷に笑いながら、颯士のチョーカーに繋いだリードを、くいっくいっと気まぐれに引っ張る。薬を拒絶した颯士には、羞恥心も屈辱感も自尊心もそのまま残っていて、どんなに心を殺して、巧の性奴隷に徹しようと思っても、身体が言うことをきいてくれないのに。
チョーカーと乳首のピアス以外は何も身につけていない姿で、巧の望み通りに、猫が伸びをするようなポーズをとる。まだ成長途中の少年ならばともかく、30を超えた自分がこんな姿を晒すのは、さぞ滑稽だろう。
巧は舐めるような目つきで颯士の全身をじっくりと観察して
「まるで発情期の牝猫だな。颯士。早く突っ込まれたくて、ここが疼いてるんだろう?」
巧のゴツゴツした指が、颯士の曝け出された敏感な窄まりに触れる。いたずらに周りを撫で回しながら、つんつんとつつかれて、颯士は漏れそうになる声をぐっと押し殺した。
「ふふん。今のおまえにぴったりな玩具を使ってやろうか」
巧は、いったん颯士から離れると、クローゼットの中から大きめのケースを引っ張り出して、颯士の横に置いた。
その中から、真新しい箱を取り出すと
「いつか樹に試してやろうと思って用意していたんだが、可愛いおまえに贈り物だ」
嫌な予感に、颯士が震えながら巧の手元を見ると、巧はくくくっと楽しげに笑って、箱の中身を颯士に差し出した。
艶やかで美しい銀色のふさふさの毛がついた、猫の尻尾の形の性具。あれの根元を中に突っ込めば、まるで颯士の尻に尻尾が生えたみたいに見えるだろう。挿入する側には、シリコンの突起が、グロテスクに連なっているのが見えた。
颯士は唇を噛み締め、目を逸らす。
「見た目はシンプルだがな、なかなか高性能なんだぞ、これは。1度味わったら病みつきになるかもな」
巧は、舌なめずりでもしているような声でそう言うと、ベッドにあがってきた。颯士は反射的に尻をおろして、巧から逃れようとした。
「こら、尻はちゃんと高く上げておけよ。躾のなってないヤツには、もっと酷いお仕置きだぞ。心配するな。このまんま突っ込んだりはしない。ちゃんと気持ちよくしてやるからな」
巧は、リードを引っ張って、颯士に元の体勢になるように促すと、尻尾の根本のシリコンをローションの瓶に浸した。
ピンク色のローションを纏った根元部分を、颯士の顔の前にわざと見せつけるようにしてから
「颯士。脚開いて、力抜いてろよ」
巧は欲情した目で颯士を見てにやっと笑うと、尻のほうに移動した。
(……いやだ、いやだ、いやだっ)
颯士は、決して声に出すことを許されない拒絶の言葉を、心の中で何度も吐き出した。
シリコンの先っぽが尻の窄まりに触れた。纏うローションの冷たさに、颯士の尻がびくっと震える。巧は宥めるように優しく颯士の尻を撫でると
「どうした? 緊張してるのか? 颯士。大丈夫だよ。俺が大事なおまえを傷つけたりするわけないだろう? いいから息吐いて、ゆったり俺に任せてろよ」
(……優しい手つき。甘い声。
巧さんは残酷な人だ。
ただひたすら俺をいじめておもちゃにして、とことんまで惨めに貶めてくれればいいのに、こうして時折、意外なほどの優しさをくれる。まるで本気で俺のことを愛しいと思ってくれているかのように……。
巧さんはどこまでも残酷で、俺はどこまでも馬鹿だ。
だから……俺はこの人から離れることが……出来ない)
樹のすべすべの太股の感触が気持ちよくて、薫はキスをしながらスカートの裾から手を差し入れた。樹は手首をきゅっと掴み、しどけなく開いていた脚をもじもじとよじり合わせる。
「……ぁ……だ……っめぇ……んむ……っ」
薫のキスを振り払い、拒絶しようとする樹の唇を塞ぐ。
(……ダメだなんて、言うな。頼むから、俺を拒むなよ、樹。
ああ。馬鹿なこと考えてるよな。よく分かってる。
でもな、兄さん、おまえが好きなんだ。おまえを俺のものに……したい。
まだ大丈夫だ。これぐらい、仲のよい兄弟が、ちょっとふざけてじゃれ合ってるだけじゃないか)
薫はすっかり劣情に支配されて、そんな言い訳にも何にもならないことを、自分の理性に必死に言い返していた。
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