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恋を識る。ということ2※
「おまえが嫌なら、もうこんなことは2度としないよ。ほんと、ごめんな」
抱き締められて優しく背中をさすられて、樹は思いっきり首を横に振って叫んだ。
「違うっ。やじゃないってば。僕、嬉しかったからっ」
「え……?」
薫はびっくりして腕の力をゆるめると、樹の顔を覗き込んだ。
(……僕は多分、泣いたせいで、すごくみっともない顔をしてたと思う。でも……でも、このまま、義兄さんに誤解されるのは、嫌だった。だから、義兄さんの目を睨みつけて、思わず言っちゃったんだ)
「もっと……。もっと、気持ちいいこと、していい? 兄さん」
「え?」
びっくりしたまま固まっている薫の顔に、樹はぐっと顔を近づけて
「兄さんの、ここ、触ってみても……いい?」
「……い……樹……」
樹の涙に潤んだ大きな目が、ぐぐっと迫ってくる。薫はびっくりし過ぎて、おそろしく間抜けな顔をした。
(……ちょっと、待て。……今、何て言った?)
薫が何も答えずに呆然としていると、樹は触れそうなほど顔を近づけてきて
「兄さん気持ちよくて、ここ、こうなったんでしょ? 僕、もっと、気持ちよくして、あげる」
吸い込まれそうな瞳。薫はその眼差しから、目を逸らせない。
(……ああ……まただ。甘い……香り。
樹から立ちのぼる、甘くて妖しい……)
「……っ」
樹の手が、おずおずという感じで、薫の股間をまさぐる。すっかり興奮してスラックスを押し上げている薫のものに、樹の華奢な指が触れた。
その瞬間、ビリっと電流が流れたような気がした。樹の涙を見て、自制しかけていたはずの情欲が、また薫の理性を霧散させていく。
幼くて妖しい、綺麗な獣。
(……ああ……くそっ……もうダメだ。
抑えがきかない……っ)
たどたどしく薫のものをスラックス越しに撫でる樹の手に、自分の手を重ねると、ぐっと力を込めた。
「……っにぃ……さん……?」
「ばか…おまえってやつは……。男はな、けだものなんだぞ? そんなことされたら、我慢出来なくなるだろ」
きょとんとする樹の幼さがせつない。薫は樹の手を自分の手で操り、昂りきった自分のものを布越しにゆっくり扱いた。
そのもどかしいはずの刺激に、怖いくらい興奮している自分がいる。自分の手でする時とは比べようもないほど、気持ちいい。
穢してはいけないものを穢すのは、背徳的な歓びがあるのかもしれない。いけない、ダメだと思えば思うほど、心の中の悪魔の囁きが、強さを増していく。
綺麗すぎる樹の目から逃れるように、薫は樹の頭を引き寄せ、噛みつくように口付けた。樹はんっと呻いて一瞬身体を強ばらせたが、すぐに柔らかくほどけて、薫の唇を受け止めた。
(……ダメだろ、樹。抵抗しろよ)
薫の内心の葛藤を知る由もない樹は、腕にしがみついて、懸命にキスに応えている。
もし今、樹が必死で抵抗したら、自分はまだ止めてやれるだろうか?
そうだ。言わなければ。なけなしの理性を総動員して、こんなことしてはいけないんだって言ってやらなければ……。この華奢な身体を引き剥がして。
唐突にキスを止めた薫に、樹は濡れた瞳を向けて
「前に、月城さんが、言ってた。好きな人には、こんな風に、キスしたいって思うんだよって。裸でぎゅって、したくなったりするんだって。だから……だから僕」
(……。
…………月城……?)
薫は唖然として、樹の濡れた紅い唇を見つめた。
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