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堕ちていく月4※
あどけない顔をした樹の、とんでもない発言に、薫はとどめを刺されたようにまた固まった。
(……これは……なんの拷問だ?)
樹は大きな目でまっすぐ薫を見つめて
「……舐めても、いい?」
再びそう言うと、赤い舌をちろっと出して小首を傾げた。
ダメだ。くらくらする。これは本当にちょっともう……
目を見開いたまま、何も答えられずにいる薫に、樹は不安そうに瞳を揺らして
「いい?にいさん」
再び無邪気に問うてきた。
(……いや、ダメだ。ダメに決まってる。おまえにそんなこと、させられるはずが……)
薫がほとんどパニック状態で、口を開きかけた時、樹は返事を待たずに俯いて、きゅっと握ったペニスの先端に、唇を寄せた。
(……っ!)
生暖かい吐息を感じた。びくっとする薫のペニスの先を、樹の小さな舌がぺろんっと舐めた。
「……っぁ」
ビリっと電流が走り抜けた気がする。
(……まずいぞ、まずい。樹、それは……)
さっき見た赤い舌。それがまるで仔犬のように、自分のペニスの先っぽをぺろぺろと舐める。気持ちよくてびくびく震えた。
脳みそが沸騰しそうだ。
「……っいつ、き……っやめ……」
薫は震える手を伸ばして、樹の頭に触れようとした。
(……っ!)
その瞬間、熱いものに包まれた。小さな口を開けて、樹が自分のペニスの先っぽをぱくっと咥えているのが見える。
「ぁ……っ」
思わず指先に力が入り、樹の柔らかい髪をぐしゃっとしてしまった。瞬間、樹が驚いたように、上目遣いで薫を見上げた。
大きな目をいっぱいに見開き自分を見上げる樹と目が合った。
瞬間、薫の脳裏を掠めたのは、現実とも夢ともつかないありえない情景。
(……同じだ……。俺は……前にこの光景を見ている。いや、見ただけじゃない。この……感触を、俺は知ってる。覚えてる。あれは……夢……?)
樹が不安そうな顔をして、口から薫のものを放した。
「……にい……さん……?」
頼りなげな樹の声。薫は自分がどんな顔をしているのか、分からなかった。樹は酷く哀しそうな目をしていた。今にも泣きそうだ。
「兄さん……これ、やだ……?気持ちぃく、ない?」
不安そうな樹の顔に、薫は手を伸ばして頬を優しく撫でた。
「いや、気持ち、いいよ。ただ、良すぎて、やばい。……あのな、樹。無理に咥えなくて、いいから、握ってて……くれないか?」
樹は首を傾げて、大きな目で薫をじっと見つめていたが、薫が切羽詰まった表情で微笑むと、やがて、こくんと頷いた。
樹の細い指がおずおずとペニスを包み込む。薫は上から覆うように自分の手を重ねて、樹の手毎、ゆっくりと扱き始めた。
樹に触られているというだけで、いつもの自慰とは興奮の度合いが違う。こんなことはいけないと重々承知だが、その罪の意識すら暗い情欲を煽った。
さっき脳裏を掠めた、樹との妖しい夢の記憶。あどけない表情で、自分のものを咥えた、樹の舌や唇の生々しい感触。薫は目を閉じて、錯綜するそれらの記憶を辿りながら、徐々に手の動きを速めていった。
「……っく」
昂りが臨界点を超える。薫は樹の手をぎゅっと握ったまま、膨れ上がった熱を一気に解き放った。
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