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堕ちていく月5※

長い悦楽の時間が終わっても、颯士はしばらく現実に戻って来れずに放心していた。 身体のあちこちが、官能の名残りにびくついている。 ここ数年は、巧が気紛れを起こした時に、おざなりに抱かれるだけだった。これほどねっとりと時間をかけて愛されたのは、いったいいつ以来だろう。 両親を事故で亡くした後、1人途方に暮れていた颯士の元に、遠い親戚だと名乗る巧が訪ねてきた。 近しい親類は、葬式の間も誰がこの子を引き取るのかと皆揉めていて、たらい回しにされそうな気配だった。 親を1度に亡くしたショックと先行きの不安に、混乱し憔悴していた颯士は、穏やかで優しげな巧が差し伸べる手に、すがり付いた。 それが、地獄の始まりだった。 優しく穏やかな紳士は、颯士を引き取って1週間で突如豹変した。与えられた贅沢な部屋は、颯士を監禁する檻に変わった。 拘束され、得体の知れない薬を無理やり飲まされ、必死の抵抗も虚しく巧に犯された。 死ぬほど嫌なのに、身体だけ慣らされていく。颯士が嫌がって泣くと、巧はかえって喜ぶようだった。残酷な性的虐待は昼も夜も毎日続いた。 半年後、巧の隙をついて逃げ出そうとしたが、呆気なく捕まった。その後2週間続いた巧の執拗で狂気じみたお仕置きに、逃げる気力は根こそぎ奪われた。 誰にも助けを求められない状況で、颯士が己を守る為にしたことは、現実からの逃避だった。 巧は自分の恋人で、心から愛している大切な人だ。 抱かれるのは自分が望んだことで、巧が自分にする仕打ちはどれも愛しくて堪らない。 こんなにも深く愛される自分は、幸せなのだ。 そんなの嘘だと頭の隅で喚く自分を、必死に封じ込めた。 それでも我慢出来ずに反抗すると、巧は嬉嬉として、より残酷なプレイを強要してくる。 こうして1年が過ぎる頃には、颯士は完全に巧の性奴隷になっていた。 巧からの行為に嫌悪は感じない。それどころか、3日も放置されると、抱かれたくて身体が強烈に疼く。 悔しい哀しい辛いといった感情は、ぐずぐずに溶けた。もう必死に思い込もうとしなくても、巧にされることは何でも強烈な快感になっていた。 先に堕とされた身体に、心が引き摺られた。 学校には行かせて貰えなかったが、勉強は全て巧に教わった。巧は人に物を教える能力が非常に高いらしく、颯士は高卒認定試験を受けた後、大学に進学し4年間無事に通って卒業もした。その頃には、巧の自分への執着は薄れて、普通に外に出歩けるようになっていたのだ。 成長するにしたがって、巧は颯士と距離を置くようになった。巧はまだ成長途中の少年の身体が好きなのだ。10歳だった颯士が巧の背を超える頃には、彼の性的興奮の対象は、他の少年たちに移っていってしまった。 巧の歪んだ欲望から解放されて、自分は嬉しいはずだった。監禁も拘束もされず、自分の意思で何処へでも行ける。 それは、巧に囚われてからずっと、切望していたことだったはずなのに……。 そろそろ家から出て1人暮らしをしろと、巧に今のマンションを買い与えられた時、颯士の心はもう1度死んだ。1度目は初めて巧に身体を奪われた時だったが、2度目の方がショックが酷かった。望まぬ関係を強いられていた数年の間に、颯士はいつしか巧を深く愛してしまっていたのだ。

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