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慕ぶ月1
「……いつき……樹……」
遠くから自分を呼ぶ声がする。
あの声は……義兄さん……?
樹は微睡みから一気に覚醒して、ぱちっと目を開けた。
目の前には自分を覗き込んでいる義兄の顔。
「……ん……にい、さん?」
樹が呟くと、薫はにこっと微笑んだ。
「おはよう、樹。おまえ、随分ねぼすけだな」
樹はぱちぱちと瞬きして、周囲を見回した。
「今……何時……?」
「もう朝の9時だよ」
笑いながら答える薫に、樹は驚いてがばっと起き上がった。
「うそっ。俺、ずっと、寝てた?」
「ああ。何回起こしても起きないし。爆睡してたぞ、おまえ」
樹は慌てて布団を跳ね飛ばすと、ベッドから降りようとして、はたっと動きを止めた。
「あ……」
いつから寝てたのか、まだ起き抜けの頭はぼんやりしていて、状況が掴めない。でも見下ろす自分の身体は、裾にレースとフリルをあしらった女性物のスリップ1枚で……。
「……っ」
樹は焦って布団を掴むと、引っ張って身体を覆った。
「明るいところで見ても可愛いな、それ」
薫は悪戯そうな顔をして笑っている。樹はぼっと頬が熱くなるのを感じて、布団で顔を半分隠した。
「思ってないでしょ。兄さん、笑ってるもん」
恨めしそうな樹の言葉に、薫は尚も笑いながら
「いや、本当だよ。ちょっと目の毒な感じだけどな。それに……」
樹は首を傾げて薫の視線を追った。
「おまえの髪、すごいことになってる。角が生えてるぞ」
樹は慌てて、今度は自分の頭を押さえた。柔らかい癖っ毛が寝癖で跳ねて、もさもさになっていた。手を離した途端に、今度は布団がずり落ちる。あっちもこっちも隠そうとして、あたふたしている樹の頭を、薫は優しく撫でて
「おはよう。お腹減ったろう?今、朝飯を作ってる。昨夜は何も食べずに寝てしまったからな」
樹はだんだん思い出してきた。
そうだ。昨日、自分は女の子の格好をして、義兄のアパートを訪ねたのだ。義兄はすごく驚いて、でも喜んでくれて、そして……そして……。
昨夜、義兄に会ってからの記憶が突然押し寄せてきた。蕩けるようなキスをしたこと。義兄が自分を好きだと言ってくれて、夢を見てるみたいな心地になった。そして……自分の恥ずかしい姿を見られて触られて……。
「っ」
樹の頬がじわじわと赤くなっていく。あれは夢じゃない。全部現実に起きたことだ。義兄の愛撫に導かれて、気持ちいいのを出したこと。義兄のものも大きくなって、こしこししてあげたこと。
(……そっか……あのまま、僕、寝ちゃったんだ……)
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