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慕ぶ月3
樹がシャワーを浴びて部屋に戻ると、薫は出来上がった料理を簡易テーブルに並べているところだった。
「お。さっぱりしたか?」
薫の笑顔がなんだか眩しくて、樹はふいっと目を逸らし
「うん。あ、兄さん、俺、手伝う」
「いいよ。もう全部出来たからな。それより髪の毛、しっかり拭けよ」
薫はご機嫌な様子でそう言うと、トレーを持ってキッチンに行ってしまった。樹はタオルで髪の毛をごしごししながら、テーブルの上の料理を見下ろす。
(……ご飯とお味噌汁と……卵焼き?……違う、目玉焼きかな、これ。あと、野菜炒め……すごいワイルドな切り方してる。あと、ウィンナーがいっぱい。ちょっと焦げてるけど……)
薫が危なっかしい手つきで包丁を使う光景が目に浮かんで、樹は思わず頬をゆるめた。
箸とソースを持った薫が、部屋に戻って来る。
「どうだ? 美味そうだろ?」
そう言ってドヤ顔してみせる薫が、ものすごく可愛い。樹は思わず笑いそうになる口をきゅっと引き締めて
「うん。兄さんにしては、上出来」
「お?可愛くないな~おまえ」
薫は笑いながら樹の肩を小突くと
「さあ、食おう。俺も腹ペコだ」
促されて樹は頷き、定位置に座る。薫も隣に腰をおろすと
「これ食ったら、車で出掛けるぞ。おまえ、行きたいとこ、あるか?」
「別に、ない」
薫は樹に箸を渡して、自分も料理に箸を伸ばしながら
「別にってなんだよ。デートするんだろ。そうだ、映画とか観に行ってみるか?」
ウィンナーに箸を伸ばしかけた樹の手がぴたっと止まった。その体勢のまま、首だけ動かして薫を見る。目が合うと薫は不思議そうな顔になり
「ん?……なんで驚いてるんだよ。デートするんだろう?」
(……デート……)
「その為にあの可愛い服、着てきてくれたんだよな?」
そう言って薫が指さす方向に、目を向けて見る。窓のサッシのカーテンレールに、女物の服が可愛らしく揃えて掛けてあった。
「……あ……」
目を見開く樹に、薫は苦笑して
「なんだ?おまえ、すっかり忘れてたのか」
(……そうだ……。僕、あの服で……)
「下着はさっき洗ったばかりだからな。薄いからすぐ乾くかもしれないけど、無理なら中はタンクトップでもいいだろ」
薫はよほど空腹だったのか、味噌汁を啜りご飯をかきこみ、ウィンナーを頬張りと旺盛な食欲をみせている。樹はというと、薫の言葉に胸がいっぱいになって、ぼんやりとハンガーに掛けられた服を見つめていた。
(……あれ着て、義兄さんと、デート……。腕組んで歩いたり、出来るのかな。映画とか……一緒に観たり?……うわぁ……)
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