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慕ぶ月4
「どうした? 樹。おまえ、食わないのか?」
怪訝そうな薫の言葉に、はっと我に返った。樹は壁に掛かった服から慌てて目を逸らし
「ううん。食べるし。いただきますっ」
多分赤くなっている自分の顔を薫に見られないように、俯いてご飯茶碗を抱えて、がつがつと食べ始めた。
(……んもぉ。義兄さんが、いけないんじゃん。ドキドキするようなこと、言うから)
ちょっと八つ当たり気味に心の中で文句を言ってみる。
もちろん、忘れてた訳じゃない。でも、義兄から言って貰えたことが嬉しい。
(……どこ、行きたいかな。僕、デートで行くとこなんか、知らないし。映画とかって……観に行ったことない。でも……マンガとか小説で、出てくるよね。恋人同士の定番って)
「とりあえず、ショッピングモールに車で行ってみるか。あそこなら映画館もあるし、いろんな店もあるから一日遊べるだろう?」
薫は至って呑気な口調で、樹の動揺にはまったく気づいてない様子だ。
(……義兄さんって……かなり罪作りだよね……)
「……うん。兄さんに任せる」
薫はさっさと食べ終わると、机の上の情報雑誌を取ってきて
「今って何やってるかな。おまえ、どんなの観たい? アクション系か? あ、アニメとかの方がいいか?」
「……アニメ……?」
「ドラ○えもんとかクレ○んしんちゃんとか、お、ポケ○ンもあるぞ?」
楽しそうに公開中の映画情報のページを指差す薫を、樹はじと……っと睨みつけた。
「兄さん……また俺のこと、バカにしてるでしょ。小学生じゃないんだからっ」
食事を終えて、洗い物を済ませて部屋に戻ると、薫はクローゼットの中をごそごそ漁っていた。
「……なに、やってんの?」
「ん?いや、おまえが下に着るタンクトップな。黒とかグレーじゃちょっと雰囲気ないよな。たしか白の薄手のが、あったはずなんだが……」
「これ、ほとんど乾いてる」
薫は振り返って、樹が差し出したスリップを見つめた。
「お。大丈夫そうか? だったらそっちのがいいな。うん、やっぱりそれの方が可愛いよな」
子どもみたいに無邪気に笑う薫に、樹はぷいっとそっぽを向いて
「着替えるから、兄さん、あっち、行ってて」
「ん? 別にいいだろ。男同士なんだから、着替えぐらい……」
「いいから、あっち行ってってばっ」
まだブツブツ言っている薫を、無理やり部屋の外に追い出して、樹ははぁ~っとため息をついた。
(……義兄さん、ほんとに無邪気過ぎるっ)
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