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慕ぶ月9

薫と手を繋いで、店の中をゆっくり見て歩く。さっきよりちょっと自信を持って、ちゃんと顔をあげて。 時折、ショーウィンドウに映る自分と薫の姿は、やっぱり大人と子どもという感じがしてしまう。でも、薫の優しい気遣いが嬉しくて。表情を華やかにしてくれる、薫が買ってくれたリップクリームをつけている自分の唇が嬉しくて。 時々、すれ違う女の子たちが、薫をちらっと見て、その隣にいる自分にも視線を送ってくることに気づいた。その度に、反射的に目を伏せてしまう。でも薫は一向に気にする様子もなく、何か気になるものを見つけては、楽しそうに笑いながら話し掛けてくれる。 (……うん。きっと、僕が気にしすぎなんだよね。でも……女の子、結構、義兄さんのこと見てる……) 樹はそ~っと、薫の横顔を見上げてみた。薫はすごくご機嫌な様子で、次はどこの店に入るかと辺りを見回している。 (……やっぱり格好いいもんな……義兄さん。女の子にモテそうな顔、してる。優しいし、男らしいし。でも時々、子どもみたいに可愛いし……) 「お。あそこ、見てみるか」 そう言ってこっちを向いた薫と、まともに目が合った。 (……わ。わー。…………見つめてるの、バレた。っていうか、どうしよ、目……逸らせない) 目をまあるく見開いたまま、ピキッと固まってしまった樹に、薫は不思議そうな顔になり 「どうした‍? 樹。おまえ、どこ見てるんだ‍?」 薫は樹の視線を辿るように、後ろを振り返って見上げている。樹は呪縛が解けて、慌てて俯いた。 (……もう……何やってるんだろ、僕。さっきから変な態度ばっかしてる。……義兄さんが悪いんだ。義兄さんが、格好良すぎるからいけないんだ) 1人で赤くなって心の中で薫に八つ当たりしている樹に、薫は首を傾げて 「上の階が見たいのか?後で連れてってやるから、何か気になるものがあったら言えよ」 とんちんかんな事を言いながら、樹の手を引っ張り 「懐かしいな、あれ、樹。好きなもの選べよ。買ってやるから」 嬉嬉として店の中に入って行く。そこは駄菓子屋だった。レトロな雰囲気の店内に、昭和ちっくな小さなお菓子が所狭しと並んでいる。 「お。これとかガキの頃、近所の駄菓子屋でよく買ってたな」 薫は子どもみたいに目を輝かせて、気になるお菓子を小さな買い物カゴにどんどん入れていた。 (……義兄さん……子どもみたい) 樹は思わず微笑んで、自分も棚に並んだお菓子を眺め始めた。

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