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隠れ月7
男の生あたたかい息が、気持ち悪い。キツい整髪料の臭いが、気持ち悪い。
恐怖と、込み上げてくる吐き気に、樹は自由にならない身体を必死に捩った。
「暴れるな。怪我したいのか?」
後ろの男の鋭い恫喝に、また身体がすくみ上がる。
首筋に吸いつかれ、舌でべろべろ舐められた。ぎゅっと瞑った目から、涙が溢れ出る。
(……義兄さんっ助けてっ義兄さんっ義兄さんっ)
男は首を舐めまわしながら、ブラウスの前で、もぞもぞと手を動かす。片手でボタンを外そうとして、上手くいかずに苛立ったのか、ぐいっと掴んで力任せに下げた。ビリっと嫌な音がして、ボタンが弾け飛ぶ。
男はいったん顔をあげ、ぎらついた目で樹の胸元を見た。
「へぇ。可愛いの、着てるぜ」
ブラウスの下は、薄いスリップとブラジャーだった。
もし万が一、薫に見られてもいいように、淡いピンクのあまり子どもっぽくなくて可愛いデザインの物を、一生懸命に自分で選んだのだ。
こんなヤツに見せる為じゃないのに。
男は、胸元から目線をあげて、樹の顔を見てにやにやして
「あの偉そうなカレシと、エロいことしてんだろ? おっぱい揉まれたり、ちゅーちゅー吸われたりさ」
樹は目を開き、怯えながらもギリッと男の顔を睨みつけた。男はますます顔をニヤつかせ
「お兄さんがさ、もっと気持ちいいこと、してやるよ」
そう言って、スリップの中に手を突っ込んだ。
「……っんぅっんーーー」
ブラジャーには形をよくするために、ふんわりとしたパッドを入れてある。この男たちは、自分を女だと思っているけど、そこに女の子みたいな柔らかい胸なんか、存在しない。
「おい、急げよ。あいつが来ちまうだろーが」
後ろの男が苛立ったようにそう言うと、樹の両腕を羽交い締めにしたまま、手を前にずらした。
「おっぱいは俺がやる。おまえ、下を脱がして、さっさと突っ込め」
せっつかれて、前の男はちっと舌打ちすると
「わかったよっ」
イライラしながら、胸元に突っ込んだ手を外して、かがみこんだ。片脚を大きく持ち上げられたせいで、短いフレアスカートは捲れあがって、下着が丸見えだ。樹は少し自由になった手でもがき、掴まれた脚をじたばた動かした。
突然の乱暴に、真っ白になっていた頭が、薫の為に選んだ大切なブラウスを破られたことで、少し冷静になった。
この男たちが何をしようとしてるのか、おぼろげに分かる。
でもそれはきっと、女の子相手にすることだ。
自分は男だから、胸を見られたって平気だし、屈んだ男が下着を外せば、驚くのはこいつらの方なのだ。
(……だって、僕、男だもん)
男だと分かれば、怒った男たちに殴られたりするかもしれない。
それはもちろん、怖い。
でも、こいつらがこんな卑怯なことをしてまでやりたいことは、絶対に出来ないのだ。
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