小さな口を精一杯開いて、もっと奥まで咥えようとする樹の肩を、薫はそっと押さえた。 「樹。いい、無理は、するな」 樹は先っぽを咥えたまま、小さく首を振る。薫はその頭を優しく撫でると 「先っぽ、だけで、いい。その下を……もっと強く、握ってくれ」 自分の声が興奮で情けなく震えている。 樹は納得しない表情のまま、それでも大人しく薫の言葉に従った。 小さな手が根元の上あたりをきゅっと握り締める。 正直、本当に奥まで咥えてもらわなくても、視覚的な刺激だけでイってしまいそうだった。 薫は乱れそうになる息遣いを必死に整えながら、樹の手の上に自分の手を重ねた。 樹の手ごと、ゆるゆるとペニスを扱く。動かしているのは自分だが、自慰より何倍も気持ちいい。 樹がぎこちなく舌を動かした。 (……ああ。ダメだ。気持ち、よすぎる……っ) 薫は手の動きを激しくした。もう、イくこと以外は考えられない。 「ぅ……っはぁ……っ」 樹が唇を窄めて、先端をちゅうっと吸った。伏せていた長い睫毛がふるっと震えて、上目遣いに自分を見上げる樹の瞳と目が合った。 (……っ！) どくんっと心臓が跳ねた。その次の瞬間、膨れ上がったマグマが一気に出口を目指す。 薫は焦って、樹の手ごと、自分のものを上に向けた。樹の口にそのままぶちまけるのだけは避けたかった。樹の口から外れた先端がぶわっと膨らんで弾ける。 「……っっくぅ」 一瞬、視界が真っ白になるほどの強烈な快感だった。噴き出した熱は、かろうじて樹の口からは外れたが、勢いよく飛んで樹の髪の毛を白く濡らした。 放出した瞬間の激しい歓びの後を、後ろめたさと後悔の念が慌ただしく追いかけてくる。 薫は荒い息を吐き出して、樹の身体をぎゅうっと抱き締めた。 樹の手がもぞもぞ動いて自分の背中に回ると、おずおずと抱き締め返してくれる。肌と肌が直接触れ合う、その温もりが嬉しい。 可愛くて愛しくて仕方がなかった。 後で後悔するとわかっているのに、この華奢な温もりを自分のものにしたくて堪らない。 (……ダメだよ、ダメだ。もうこれ以上は、絶対に) 自分がそれを望んだら、樹はきっと拒まない。 だからこそ、大人の自分が踏みとどまらなくては。 「ごめん、樹。おまえの髪……汚してしまったな」 いつまでも抱き締めていたい気持ちを無理やり引き剥がし、薫は樹の身体から手を離した。 「洗ってやるよ、髪の毛」 樹の目を見ないようにして、樹に背を向けた。シャンプーのボトルに手を伸ばしかけた時、後ろから樹が抱きついてきた。 (……っ) 「っ。どうした、」 「にいさん。あのね。にいさんは、僕のこと、好き？」 薫は驚いて振り返り、樹の顔を覗き込んだ。 「あ……ああ。もちろん」 「じゃあ……僕のこと……抱きたい？」 「え？」 樹の潤んだ瞳が真っ直ぐにこちらを見上げている。 「樹。抱くって、」 樹はきゅっと目を細めて 「月城さんが、好きならキスしたくなる、抱き合いたくなるって、言ってた。にいさんは、僕のこと、抱きたい？」 また月城の名前が出た。樹を……おそらくは抱いた男の名前だ。 抱きたいか？と言われて、月城に抱かれる樹の姿が脳裏に浮かんだ。心臓が嫌な感じにどくんと跳ねる。 「にいさんの、ここ」 樹の手が伸びてきて、薫の下腹に触れる。 「僕の、中に、入れたい？」