209 / 448
月の舟・星の海12※
「にいさんの、ここ……。僕の、なかに、いれたい?」
樹の問いかけが、やけに大きく響いた。とろりとした蜜のような甘い香りが、浴室中に一気に立ち込めたような錯覚を起こす。
(……だ、め、だ……樹……)
自分の息遣いが怪しい。キーン……と耳鳴りまでしている気がする。
ピキっと固まって、声も出ないでいる薫に、樹はちょっと不安そうに顔を曇らせ
「僕じゃ、嫌? 気持ち……悪い?」
泣きそうな声で囁く。
(……違うっ。そうじゃない!)
項垂れて、下腹から離れていこうとする樹の手を、がしっと掴んだ。そのまま、自分の熱く脈打つそこに押し当てて
「これを……いれてもいいのか? おまえに」
(……ばか。よせ)
言ってはいけないひと言が、こぼれ落ちる。
樹はぱちぱちと瞬きをして
「うん。にいさんが、嫌じゃないなら……」
言いながら、くるりとこちらに背を向けて、小さな尻をくいっとあげてみせた。
「僕の、ここに……いれて?」
「……っ」
薫は息を飲み、樹の尻の狭間を見つめた。華奢な身体つきは間違いなく13歳のそれなのに、腰を捻って尻を突き出す樹の姿は、ぞくっとするほど婀娜っぽい。首だけ振り返って上目遣いの流し目で誘う、その表情にも妖しい艶めかしさがある。
薫はごくりと唾を飲み込んだ。止めておけ、と警告する自分の良心の声は、高鳴る心臓の音にかき消されて、もう聴こえない。
「樹……いいのか? 辛く、ないか?」
そこにこれを入れてくれとねだるってことは、つまり、月城ともそういう行為をしていたのだ。時折、驚くほど大人びて見えるのは、やはり既に体験済みだったからなのか。
「ぅん。大丈夫。僕の身体はエロいって。おっきいのも、ちゃんと飲み込めるって」
(……っ!?……月城のやつ……っ)
こんな少年に、尻でするセックスを教え込んで、そんなゲスなセリフまで吐いていたのか。
目の前が一瞬赤く染まるような、激しい怒りと嫉妬が込み上げてきた。
(……俺の……俺の樹に……よくも……)
薫は、樹の身体をくるんっと自分の方に向かせて、思いっきり抱き締めた。
「樹……っ」
もう絶対に、月城には指1本触らせない。
樹は……
「にい……さん……?」
驚いて身体を強ばらせ、樹が不安気に自分を呼ぶ。
薫は腕の力を少し緩めると、樹の顔を覗き込んだ。
「樹。おまえの恋人は、月城じゃない。俺だよな?」
「え……うん」
「俺が、抱いてやる。おまえの身体。月城からされたことなんか……全部、俺が忘れさせてやるよ」
樹は大きな目をこぼれ落ちそうなほど開いて、じっと自分を見上げている。薫は安心させるように必死に笑みを浮かべると
「樹は、俺のことが好きだよな? 俺も樹が大好きだ。俺とおまえは、恋人同士だよな? だから……」
真っ直ぐに見つめてくる樹の眼差しに、急に後ろめたさを感じた。薫は樹の頭をかき抱くようにして自分の胸に埋めさせ、視線を逸らすと
「にいさんが、抱いてやる。おまえのこと。大切に大切に……抱いてやるからな」
ともだちにシェアしよう!