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星を渡る月舟1※

シャワーを浴びてボディソープを洗い流すと、薫は先にいったん浴室から出て、棚のバスタオルを取って戻った。 手早く水気を拭き、大きなタオルで包み込むようにして、樹の身体を抱き締めた。 樹を抱く。自分のものにする。 今はそのこと以外は考えられない。 いや、考えたくなかった。 良心の呵責も分別も理性も、今だけは全部忘れてしまいたい。 樹を抱きかかえながら部屋に行くと、真っ直ぐにベッドに向かった。何の抵抗も戸惑いもなく、ベッドに腰をおろす樹に、かがみ込んでキスを落とす。 樹はふぅ……っと呻き、性急な自分のキスに応えようと、手を伸ばして首にかじりついてきた。 息苦しいほどの激しい口付けをほどくと、樹はとろんとした目でこちらを見あげていた。 濡れた唇をうっすらと開き、うっとりとした表情を浮かべている。 薫は堪らなくなって、大きく息を吐き出すと、樹の身体をベッドに押し倒した。 シーツの上に組み敷いて、両手を軽く押さえつけ、再びその甘い蜜を吸う。樹の身体からは自分と同じボディソープの香りに混じって、甘い甘い匂いが立ち上っていた。 「んぅ……っふ……ぅ」 差し入れた舌をちゅくちゅくと吸いながら、樹の鼻から甘えた声が漏れ出す。自分の下で身体をくねらせ、甘い誘惑の香りを撒き散らしながら呻く樹に、劣情を煽られていく。 「にいさんが、抱いてやる。おまえのこと、大切に大切に、抱いてやるからな」 薫の優しくて頼もしい声が、繰り返し繰り返し頭の中に鳴り響く。 樹の心は歓びに満たされていた。 大好きな義兄が、自分を抱いてくれる。 叔父に無理やりされていたあの行為を、義兄がしてくれるというのだ。 (……にいさんの、あのおっきくて熱いのを、僕のお尻にいれてくれる……) 叔父にされていたことは嫌で嫌で堪らなかった。される度に身体は反応して、頭がおかしくなりそうなほど気持ちよかったが、事が終わると死にたいくらい気持ち悪くなった。その部分から、自分の身体が腐っていくような恐怖と絶望感に震えていた。 でも……。 義兄が同じことをしてくれたら、自分はきっと怖くない。気持ち悪くもならない。 だって……好きだから。義兄のことが大好きだから。 それでも、義兄にそれをして欲しいとお願いするのは、すごく怖かった。恋人だ、大切だと薫が何度言ってくれても、そんな行為をすることは、嫌かもしれない。気持ち悪いと拒絶されたら……呆れて口もきいてくれなくなったら……。そう思うと、口に出して願うことは叶わぬ夢だと諦めていた。 それなのに……。 義兄は自分のお願いを拒絶しなかった。ううん。拒絶どころか……すごく熱っぽい目をして、望んでくれた……ように感じた。 薫のそこは、自分と同じように大きくなっていた。自分の身体を見て、興奮してくれたみたいだった。 キスも身体を触るのも、薫は嫌がっていない。 口に入れることも、歓んでくれた。 口と手でこしこししてあげたら、すごく気持ちよさそうにイってくれた。 (……大丈夫。にいさんは僕の中で、きっと気持ちよくなってくれる) 叔父に「おまえの身体はエロいから、抱く度にいやらしくなっていくぞ」と、言われる度に恐怖だった。どんどん変になっていく自分の身体が、恐ろしかった。でも、叔父があんなに興奮して何度も抱きたくなる身体なら、薫もきっと満足してくれる。 そのことが、今は嬉しくて堪らない。 (……僕の中で、気持ちよくなって。にいさん) 樹は祈るような気持ちで、薫の与えてくれる甘い口づけに夢中で応えていた。

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