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星を渡る月舟5※
「樹……っ……樹……っ」
後ろからのしかかる薫の、熱に浮かされたような声。まるで獣のように息を荒らげ、うわ言のように自分の名を呼んでいる。
相手が叔父でも、抱かれれば身体は悦びに乱れ狂う。自分の身体は叔父に、そんな風に躾されてしまった。
でも今、初めて薫の熱を打ち込まれてみて、叔父との行為とはまったく違うのだとわかった。強制的に引き出される身体だけの気持ちよさとは、まるで別ものだった。
抱かれて歓びに震えているのは身体ではない。
心だった。身内から沸き起こる歓喜は、心を揺さぶり震わせている。
(……にいさん。にいさん。にいさん……っ)
この身体に欲情して、快楽を貪っているのは愛しい義兄。こんなにも満ち足りた幸せを、与えてくれているのは大好きな義兄なのだ。
涙が溢れて止まらない。
樹は両手でシーツをぎゅっと掴み締めて、薫が動きやすいようにお尻を高く突き出した。打ち込まれるリズムに合わせて、腰を前後に揺らす。
自分が気持ちよくなりたいよりは、薫を悦ばせたかった。自分の身体で義兄がもっともっと気持ちよくなって欲しい。
「んぅ……っん……にい、さん……っ好きぃ……」
自分の中がびくびくしている。義兄の硬く熱い熱芯をきゅうきゅう締め付けている。
薫が堪らないというように、熱い吐息とともに呻き声を漏らした。
(……にいさんが、感じてる。悦んで、くれてる)
狭すぎて怖かった樹の中が、柔らかくほぐれて自分のものに絡みつく。突き入れる度にうねって、気持ちよくて堪らない。
最初の衝撃的な興奮がおさまると、薫は腰の動きをなるべく遅くした。樹の中の感触を味わうように、ゆっくりと押し入り引き抜いていく。
動く度に樹の小さな尻が揺れた。繋がっている部分を覗き込むと、あまりの淫靡さに心臓がどくんっと跳ねた。
荒い息遣いと唸るような自分の声。全身の毛穴がいっせいに開いているような錯覚。
いけないことをしているという後ろめたさが、完全に消えたわけではないが、樹の全てを愛したいと思う気持ちの方が勝る。
「樹……っつらく、ないか」
ようやく、樹の身体を気遣う余裕が出てきた。自分の口から出た声音の甘ったるさに、自分で驚いてはいるが。
樹は腰をくねらせながら、こくこくと頷いて
「……んぅ……に、さん……っもち、いぃ……っ」
せつなげなその言葉と声にまた煽られて、腰に甘い痺れが駆け抜ける。
(……そうか。樹も、気持ちいいんだな)
壊してしまいそうな華奢な身体だ。自分を受け入れても辛いだけではないかと不安だったが、樹も気持ちよくなってくれているのか。
薫はほっとして、ふと思いつき、腰から手を離して樹の前に伸ばした。そこにはしっかりと育った樹のペニスが、頼りなげに揺れていた。そっと手を回して握ると、樹はびくんと震えて
「ああん……っ」
可愛らしい声をあげた。
「樹……ちょっと……、身体、起こせるか?」
薫は繋がったまま樹の背中に覆いかぶさると、耳の後ろに囁いた。その動きに中を刺激されたのだろう。樹はまたああんっと鳴いて、全身を震わせる。
冴香が嫌がるから、薫は正常位のセックスしか知らなかった。後ろからのこの体位も新鮮だが、樹が必死に腰をあげているのがちょっと辛そうだ。
(……このまま、樹を抱っこしてみたらどうだろう)
浴室で樹に口淫をしてもらったおかげか、それほど切羽詰まった射精感はない。さっきより気持ちにも少し余裕が出てきた薫は、樹の反応をもっと確かめたくなってきたのだ。
「樹。にいさんが、抱っこしてやる。身体、起こしてごらん」
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