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零れ落ちる月砂1

誰にも会わずに自分の部屋に入ると、樹はすぐにベッドに横たわって、ほぉ……っとため息をついた。 ついさっき別れたばかりなのに、もう義兄に会いたくて堪らない。 いつまでも見ていたい夢の中を、ずっと漂っているようなふわふわした幸福感が続いていた。 破れた服の代わりに、薫が貸してくれたシャツとトレーナー。腕を持ち上げると、ふわっと義兄の残り香が鼻を掠めた。 腕を鼻に押し付け、くんくんと嗅いでみる。 大好きな義兄の、コロンの香り。 包まれていると、泣きたいくらい幸せな気持ちになった。 ……にいさんと……ひとつに、なれた……。 あれから知らないうちに寝てしまった自分を、義兄はずっと抱き締めていてくれた。 目が覚めると、男らしく微笑む薫の口づけが優しく落ちてくる。夢中でそれに応える自分の身体を気遣いながらも、自分がまた望むと、義兄は情熱的にこの身体を抱いてくれた。 「大丈夫か? 樹。あまり無理をしてはだめだ」 目覚めた翌日、朝食後に樹が「もっと抱いて欲しい」とねだると、薫はすごく心配そうな顔をして「別にここにいれなくてもいいんだぞ。こうしておまえと肌を合わせているだけで、にいさんはすごく気持ちいいんだ」そう言って、2人一緒に裸になり、ずっとベッドで抱き締めてくれていた。 後ろに義兄のものを受け入れるのは、身体が心配だからと、その後も許してくれなかった。 でも、逞しい身体で包み込むように抱っこしてくれて、全身にキスをしてくれた。 身体のあちこちに、義兄が愛してくれた証が散らばっていた。それが、どこもかしこも甘く熱を持っているようで、それが幸せで嬉しくて、また泣きたくなる。 ……にいさんと、本当の恋人に、なれたんだ。 薫は昼食の後で、今後の計画を熱っぽく語ってくれた。それは樹には、まるで夢物語のように聞こえたが、義兄は真剣に自分との今後のことを考えてくれていた。 夕方、離れ難さを感じながら、義兄の車で家まで送ってもらった。 義兄はそのまま、義父と母に会って、今後の話をしたかったようだが、あいにく、家には誰もいなかった。 「明日、父さんに連絡をして、話し合いの場を作ってもらうよ。そう簡単には許してもらえないだろうが、おまえを俺のアパートに連れて行く。樹。心配は要らない。反対されても俺の気持ちは絶対に変わらない。だからおまえは、そのつもりで、俺が迎えに来るのを待っていてくれ」 車の中で、義兄はそう力強く約束して、しっとりと口づけをしてくれた。 「にいさん……」 樹はうっとりと天井を見上げて、自分の腕で自分を抱き締めてみた。 ふわっと鼻を擽る義兄の残り香が、ふんわりと自分を包み込む。 今はここにいない義兄に、優しく抱き締められているようで、樹は満たされて幸せだった。

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