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零れ落ちる月砂3
「別に、デートってわけじゃ、ない」
樹がぼそっと呟くと、月城は初めて、ちらっとこちらを見た。
「そう? でも君は、お義兄さんのこと、好きなんだよね?」
「……嫌いじゃない。それより月城さん、何処に向かってんの? 母さん、どこに? 何が……」
「お義兄さんに、もう会えなくなるのは、辛いよね?」
「……っ」
樹は息を飲んで、月城の目を見つめた。月城はふいっと目を逸らすと、ゆっくりと減速しながら路肩に車を停めて
「お義兄さんは、君を優しく抱いてくれた?」
「……な、に……? 月城さん、さっきから何言ってんの? 僕は……」
「樹くん。お義兄さんとの幸せな時間。大切な思い出としてとっておくといいよ。その記憶はこれから先、君のただ一つの支えになるから」
……なに……言ってんの……?
樹は眉を顰め、月城の横顔をじっと見つめた。街灯の仄白い光に浮かび上がるその顔は、まるで蝋人形のように青白く見える。
「巧さんがね、君とお義兄さんのことに気づいたよ。僕は、出来れば君の味方をしてあげたかったんだけどね」
「……え……?」
「君のこと、とても悪い子だって怒っているんだ。可愛い甥の薫を誘惑して、あいつの将来をめちゃくちゃにする気か?ってね」
「……っ、月城さん、僕は」
「ご両親に、君とお義兄さんの関係を話すそうだ。君がお義兄さんを誘惑して、許されない関係を持ったことをね」
「……っちが……ぼ、僕は」
月城の目が冷たく光る。樹は喘ぐように口を開き、何とか反論しようとするが、月城は厳しい表情で首を横に振り
「君のお義父さんはとても厳しい方だそうだから、もしそんなことを知ったら、薫さんの学費の援助を打ち切ってしまうだろうね。そうなったら君のお義兄さん、どうなると思う?」
樹は大きく目を見開いた。
頭の中にガンガンと音が響く。
もし、そうなったら……。
今日、自分を抱き締めながら、将来の夢や自分との今後を熱っぽく語っていた義兄。
そのきらきらと輝く目や弾むような声が、脳裏に鮮やかによみがえってくる。
許されない関係。
そうだ。昨夜、自分は義兄に抱かれた。
男同士なのに。
血は繋がっていなくても、兄弟なのに。
義兄自身も言っていた。
世間的には自分たちの関係は、許されないかもしれないけれど、と。
「月城さんっ待って。僕は、そんなこと、してな……」
「君の身体を調べれば分かることだよ。それともお義兄さんに連絡して、聞いてみようか? 貴方はまだ幼い自分の義弟と、セックスしたのですか?って」
「……っっっ」
樹は思わず、着ているトレーナーの胸元をぎゅっと掴んだ。
調べてみればわかる。
そうだ。
たしかに自分の身体には、昨夜から今日まで義兄に愛してもらった赤い印が、あちこちに残っている。
さっき浴室で、その印が点々と散っているのを見て、嬉しくて泣いてしまったのだから。
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