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零れ落ちる月砂6※
「来たか、樹」
ドアを開けた途端に飛んできた叔父の声に、樹はびくっと足を止めた。
俯いたまま、どうしても顔はあげられない。
月城に背中を押し出されるようにして、ずりずりと部屋の中に入った。
「まったく……仕方のないやつだ」
ため息混じりの叔父の声。
樹は唇を噛み締めた。
「こっちに来なさい」
月城の手が背中から離れる。
樹はふらふらと自分の足で歩き始めた。
俯いたままの視界に、ソファーが見える。
立ち上がってゆっくりこちらに近づいてくる叔父の足が見えた。
「樹。顔をあげなさい」
樹はぐっと歯を食いしばり、のろのろと顔をあげる。自分を見ている叔父の顔。目は、合わせられない。
不意に腕が伸びてきて、がしっと肩を掴まれた。
「……っっっ」
息を飲む樹の目に、すぐそばまで迫ってくる叔父の顔が映る。咄嗟に顔を背けると、そのままがばっと抱き締められた。
「ひっ」
「颯士から聞いたぞ。私に謝りたいそうだな」
思わずあげかけた悲鳴を必死で飲み込む。叔父はものすごい力で抱き締めてきて
「おまえがそうやって素直になるつもりなら、私もお仕置きはしないぞ、樹。薫とのことは、気の迷いだったんだよな? 忙しくてあまり構ってやらなかったから、寂しかったんだろう?」
叔父の声音は、薄気味悪いくらい優しかった。
その声が、思いもよらぬことを囁いてくる。
……な……に……これ……。
叔父は、樹の返事など期待していないのか、独りで喋って納得したように、樹の頭を撫でてきた。背中も大きな手で撫でてくる。
顔を見せた途端、怒鳴られて、無理やり寝室に連れて行かれるのだと思っていた。
樹は叔父の意外な態度に、頭がぼーっとした。身体も金縛りにあったように動けない。
「まあいい。今回だけは許してやろう。この身体を一人遊びだけでは我慢出来ないように躾けたのは、他でもない私だからな」
叔父の生暖かい息が、顔の横におりてきた。耳を唇で挟まれ、歯をたてられる。
「……っ。……っ」
気持ち悪い。ぞくっとする。
虫が這うようなぞわぞわとした痺れが、身体の奥に向かって走り抜けた。
叔父のざらついた舌が、耳の周りを舐め回す感触に、樹はぎゅっと目を瞑って必死で耐えた。
叔父のシャツの腕の所をぎゅーっと掴み締めると、叔父は満足そうに喉を鳴らして笑い
「おまえの今後については、兄貴から全面的に頼まれたからな。その為の準備に時間がかっていたんだ。安心しろ、樹。もう寂しい思いはさせないぞ」
叔父が楽しげに囁く言葉は、まったく理解出来ずにいた。ただただ、叔父の手が身体を這い回る感触が気持ち悪くて寒気がする。
「抱いて欲しいか? 樹。いいだろう。久しぶりにたっぷり可愛がってやる」
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