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見えない光7

樹を自宅に送った帰り道、薫はコンビニに寄って、住宅情報誌とバイト情報誌を手に入れてから、自分のアパートに戻った。 部屋に入ると、シンと静まり返った室内に、まだほんのりと樹の気配を感じる。 樹と過ごした穏やかで満ち足りた時間の記憶が、脳裏に浮かんできて、薫は1人頬をゆるめた。 明日、父に連絡をして、話し合いの場を作ってもらう。父は決していい顔はしないだろう。猛反対される可能性もある。 でも、今度こそ自分は、自分のありったけの本音を父にぶつけて、理解してもらうのだ。 樹を、自分の側に居させるために。 あの子に対して、きちんと責任を取るために。 義理とはいえ、弟に、親族として以上の情愛を抱いてしまったことは、まだ自分の中でしっかりと消化出来ているわけじゃない。 無垢で幼いあの子を、男として抱いてしまったことにも、もちろん罪悪感はある。 それでも……樹は自分にとって、もうただの義弟ではないのだ。 これから先、出来れば一生、側にいて幸せに笑っていて欲しい愛しい人。 樹を幸せにすることが、自分の将来の夢と同じラインに並んでいる。 まだ学生の身の自分に、今出来ることは……。 樹を完全に自分の力で養ってやることは難しい。だが、もう少しアルバイトの時間を増やして、生活を切り詰めれば。 父とは、樹の学校の費用については、親の義務として出してもらうように交渉をする。でも、自分が大学を卒業するまでは、出来るだけ最低限の費用を出してもらって、卒業後は今、誘われている事務所に就職するのだ。他にも選択肢はあったが、今考えられるのはこの方法だけだ。おそらく、父との交渉は難航する。だからおまえは世間知らずなのだと、また聞きたくもない説教もくらうだろう。 それでも……。 樹と共に過ごせるこれからの日々を思えば、自分はどんなことでも出来る気がする。 あの子が側にいて、ぎこちないけれど可愛い笑顔を見せてくれるだけで、自分の心は温かい光に満たされるのだ。 「樹。待ってろ。兄さん、絶対におまえを、幸せにしてやるからな」 胸に溢れる想いを、そっと口に出してみる。 たったそれだけのことで、こんなにも満ち足りていく。 薫は、湯を沸かして粉のコーヒーを入れると、それを片手に、アルバイト情報誌をパラパラとめくり始めた。 「にいさん……」 ふと、樹の声が聴こえた気がして、薫は振り返って窓の外を見上げた。 真っ暗な空に、青白い光を放つ下弦の月が、静かにこちらを見下ろしていた。

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