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新居、決めました篇 3 事後の甘さ

 要の肌は白い。だから、セックスの後は火照って、ほんのり色づいてすげぇ綺麗。 「どこも、痛いくねぇ? 膝とか」  ふたりでシャワー浴びて、その綺麗な貝殻色をした要の肌が服で隠れるのがもったいなくて、首筋に吸いついて遊んで、髪を乾かす邪魔してる。だって、すげぇ色気で、長風呂でもなかったのにのぼせそうなんだ。濡れた黒髪は普段よりも長く見えて、それが細く白い首筋に張り付いてる。うなじの、背骨んとこ、ちょうどひとつ骨がぽこっと出てるところを避けるようにしなだれて、吸い付いて欲しいんじゃないかって勘違いするだろ、このうなじの色気はさ。 「ン、痛くない」  廊下で四つん這いバックで止められなくて、攻め立てた。酔っ払った要のエロさに抑えが利かなくなって、何度も激しく奥をついてたから、膝、硬い廊下に四つん這いで、痛かっただろ。やっぱ、嫌がっても俺のコートを下に敷けばよかった。 ――あ、だって、高雄のコートが汚れちゃう!  露だくになった自分のが滴り落ちるって困った顔されて、頭がバカになって無我夢中だった。要のこの無自覚な色気はちょっとヤバいレベルを最近超えてる。そのうち失神する奴がばったばった出てきそうなくらいだから、今日の飲み会だって気が気じゃなかったんだ。電車の中ですら、早く進めよって時計と、液晶に写る路線図と睨み合いをしていたくらいで、駅からなんて久しぶりに走ったりなんかして。  そのくらい、最近の要はヤバい。 「ほら、痣にもなってないだろう?」 「……」  目玉、飛び出るぞ。  風呂から上がったばっかで、髪の先からは洗いたてのシャンプーの香りと、滴り落ちそうな雫がくっついてる。そして、まだ着替え途中の要。上だけしか着てなくて、下は、何も履いてなくて。ルームウエアどころか、下着だって。 「高雄?」  そんな状態で、無傷な膝小僧を、後ろから抱き締めて首筋にキスをして遊んでいる俺に見せるため、鏡に映るよう片足を抱えあげた。きわどすぎ。見えそうで見えないパイパン、でも、その太腿には影になっててもちゃんとわかるほどキスマークがくっついてる。全部が見えないけど、全部をさっき見てた。俺のをしっかり咥え込んだそこが見えないのがたまらなくエロい。 「あんた、なぁっ」 「え? な、なんだ?」  なんだはこっちだっつうの。なんなんだよ、その脚の付け根のエロさ。 「ど、どうしたんだ?」 「……はぁ」 「た、高雄?」  溜め息をつかれたことに目を丸くするような初心なとこも、きわどいチラ見せを天然でぶっこんでくるとこも、スケベなおねだりをするとこも、全部―― 「好きだ」 「!」 「……っぷ」  思わず吹き出した。何度言っても足りないのに、何度言ってもまだ嬉しそうに喜んで照れて、少しだけ驚く要が可愛くて、たまらなく好きで、ホント、閉じ込めておけるんならそうしたい。 「ドライヤーやってやるから貸して」 「え?」 「要の髪、乾かすよ」  ただ、その黒髪に触れて、指先で梳きながら、熱風に揺れる柔らかさを堪能するのですら楽しい、楽しくて―― 「よ、酔ってるのか? 高雄」 「は? 酔ってるわけねぇじゃん。っつうか俺そんなに飲んでねぇよ。なんで?」 「楽しそうに歌ったりしてるから」  そりゃ、そうだろ。あんたの髪を乾かすのすら楽しいんだから、鼻歌くらい余裕でるんだよ。 「すまない、高雄、でも、こっちでいいから着てくれないか?」 「きついの嫌いなんだよ」  嘘。別にきつくてもそれで寝苦しくなるわけもないし、寝たらわかんねぇだろうし、かまわないんだけど、要が差し出した家着を丁重にお断りした。そして上半身裸のまま要の布団に入って、このベッドの主である要を俺が迎える。  服が、てんきがあまり良くない日続きで乾いてなかった。昨日も俺はここに泊まったから、着替えが足りなくて、洗濯したのも乾いてないため、俺は裸で寝るしかない。 「でも、俺がドキドキして」 「早く、さみぃよ」 「わっ!」  自分のベッドに入ることを躊躇ってモジモジしている要の手を強引に引っ張って、腕に閉じ込めながら横になった。 「……た、かお」 「んー?」  あったかい。  ぎゅっと抱き締めながら、目を閉じると、裸で寝るには寒いはずの二月の深夜だとは思えないくらい身体がじんわりと温まる。気持ち良くて、最高の心地で、要の頭にキスをひとつした。優しいシャンプーの香りに包まれると、途端に眠くなる。 「酒の席、接待とか、これからは私も出るからな」 「ぁ? なんで? 接待なんて、別に」 「いいから。出る」  何? なんで、そんなに出たがんの? 接待なんて、別にあんたが出なくても俺ひとりでちゃんと今までできてたし、っていうか、わざわざ課長が接待に顔出すってどんだけ過保護なんだよって、そう……思われ、るぞ? 「もしかして、要」 「……」  俺が抱きかかえてるから、要は顔を胸んところに埋めていて、今、どんな顔してるのかはここからじゃ見えない。 「もしかして、キャバクラとか? 心配してたり、する?」 「……」  見えないけど、そのうなじが真っ赤だった。そりゃ接待でキャバクラにっていう場合もないわけじゃない。でも、だからって、美味いとも思ってない酒を飲む練習してまで? そんな無理してついて来なくたって、俺は別に誰かと浮気をするつもりも、あんた以外に触れるつもりもないのに。 「高雄は、そうかもしれないが」  要が、こんなにくっ付いてるのにまだ足りないって、その細腕に力を込める。 「女の人が寄ってくる」 「っぷ、確定?」 「笑い事じゃないんだぞ! 高雄は! カッコいいんだ! 荒井も、そう、言ってた。カッコいい……って」  そこで声が少しょぼくれた。別に荒井さんの言ったカッコいいは、要の感想に同意しただけだろ。なのに、ずっと顔を隠したまま、胸のところで自分のヤキモチを暴露して、そのうなじを真っ赤にして、こんな年上の可愛い人を抱ける特権を手放してまでしたいことなんてないだろうが。 「ねぇよ。キャバクラ、一緒に行ってもいいけど、俺が要にヤキモチやくぞ」 「俺なんて」 「好きな奴を独占したいのは普通だろうが。それに」  今度は俺が、こんなにくっついててもまだ足りないって、腕に力を込めて要を引き寄せる。 「それにあんた以上に好きになれる奴なんていない。だから安心してろ」 「でも」 「キャバクラとか興味ねぇし、それに」 「……高雄?」  きつく抱き締めすぎて胸のところがくすぐったい。 「酔っ払ってしゃっくりし続ける可愛い上司以外、目に入らないんだよ」 「……」 「わかったか?」  ぽかんとしてた。隠してた顔を上げて、少し赤い頬をそのままに口をあんぐり開けている。 「ひゃっくり、かと思ってた」 「は?」 「しゃっくりなのか……百回繰り返すと死んでしまうから、ひゃっくりなのかと」  そんな天然なことを言われて、俺は好きって気持ちと一緒に笑いのツボも押されまくって、しばらく布団の中で眠気もすっ飛ぶほど笑っていた。

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