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ハロウィンコスイチャ 2 上官は新兵とイケナイ××

「ふーん……」  まぁ、たしかに高そうだな。光の加減によっては黒にも見える濃紺の軍服に金糸の刺繍があしらわれて、肩からぶらさがる飾緒も重量感のあるものだった。  コスプレコンテスト出場者様って案内された大広間に設置された姿見の前で、じっと、軍服姿の自分を見つめた。  要が軍服につられて、部屋の模様替えそっちのけで俺に上司命令振りかざしてまで出場させたコスプレコンテスト。  賞金はディナーアンド宿泊、だっけ?  あいつと、ディナーしたって微妙……。 「うひょおおおお!」 「……」 「すげ……すげぇっす! 庄司先輩! ヤバいっす!」 「……あ?」  山下は……なんだそれ。同じ軍服のはずなのに、なんか、お前が着ると入学式の中学生みたいになんのな。 「すげぇ……かっけぇ……」  でも、ある意味、上官と新兵感はあるかもな。 「これ! 優勝間違いなしっすよ!」 「や、お前が足引っ張るだろ」 「あはははぁ」  なんだその下手くそすぎる誤魔化し笑いは。  出場者のみが大広間への入室ができる。要と、冷やかしの荒井と、営業部の年長として先輩が来てくれていた。 「まぁまぁ、ほら、そしたら、営業部のみんなにお披露目しましょうよ!」 「ちょっ、おいっ!」 「じゃっじゃじゃーん!」  呼ばれて飛び出そうな効果音つきで引っ張り出されたのはその応援組が待ち構えるフロアだった。  コンテスト開始を待つ、モンスター系のお化け、ゾンビ、吸血鬼、ハロウィンらしい感じのコスプレをしている人から、キャラクターものまで色々いて、それはそれで珍妙な光景だ。 「花織課長は?」  もしも街中で見たのなら、お化けもゾンビも、もちろん、あそこにいる和製妖怪だって相当目立つだろうけど、これだけの人数となると、むしろ、その中にいる普通の服装をした荒井と先輩のほうが目立っていた。けれど、そこに要の姿がない。 「へ? あれ? さっきまでここにいたんですけど……」  荒井が目を丸くして、辺りをぐるりと見渡した。一緒に来た時はスーツを着ていた。コンテストだしホテルはそれなりに名の通ったところだからって、真面目に構えて。 「おーい、花織かちょおおお」  上司である課長を前に「おーい」はどうなんだって話だけど、本当にあいつの姿がない。  休日だっつうのに、濃紺のスーツを着てた。きっとこの中だったら、あの美人がそんなスーツで歩いてりゃ目立つはずなんだ。 「ちょっと探してくる」 「へ? あ、もう少しで始まっちゃいますよ?」 「あぁわかってる」  ったく、あの人は一体どこに行ったんだ。迷子? それとも人に酔った? まさか、本物のドラキュラでも混ざってて、あの白いうなじに齧り付きたいとさらわれた? ありえそうだけど。もしくは、ゾンビ――。 「! 要っ!」  いた。廊下の角のところ、生真面目な紺色スーツに眼鏡の要の頭がチラリと見えた。 「要!」  たったそれだけのシルエットであの人だって、わかる俺も相当だな、なんて、思っては少し自慢気になりかけて、走って駆けれ寄れば、肩を震わせながら俺を見つめて。  やべぇ、今すぐさらいたい。 「悪い。怖かったか?」 「っ」  そう、あんたはすげぇ怖がりだった。 「ゾンビがいっぱいいた」 「仮装だからな」 「うぅ……」  ごめんって思いつつも、もう、なんか、罪悪感に、ゾクリとした興奮が混ざって、それもまた申し訳ないんだけど。  でも、仕方ない。  あんたがまさかゾンビ怖さに逃げ出して、涙目になりながら廊下に隠れてるなんて、なんだそれ。最高に可愛いだろ。そんでさ、この人が凶悪なのは、可愛いだけじゃなくて。 「高雄」 「……何?」 「ものすごくカッコいい」 「……ありがと」  今さっきまで怖がって、ブルブルしてたくせに、今、あんた好みの軍服姿になった恋人に一瞬で見惚れて、一瞬で身体を火照らせて、引っ張って死角に連れ込んで、キスをせがむ。  可愛いだけじゃなくて、スケベでエロいところが、ホント、最高だ。 「……ン」  賞金は、ディナーと宿泊、だったよな。要の口の中を少し強引に荒らしながら、そんなことを考えていた。 「高雄」 「優勝、してくっから」 「ん、頑張ってくれ。山下の幼馴染もきっと喜ぶぞ」  そこじゃねぇよ。けど、それは内緒にしておこう。 「待ってて」  待て、を告げるためのキスをして、それこそ軍人のようにブーツのかかとを……絨毯だから鳴んねぇけど、颯爽と会場となっているフロアへと向かった。 「おーい、せんぱーい」  新兵山下がびょんびょん跳ねている。  なぁ、なんで、そんな高い軍服コスを買ったのに、お前のはサイズちっとも合ってねぇの? いいけど。そのほうがニュアンス出るから。 「山下、これ、コスプレしたこの格好で三ポーズ取るんだよな?」 「はい! 審査員の前で、えっと、最初が並んで敬礼、二つ目が談笑、三つ目がモデル立ち」 「却下」 「ひえ?」  なんだそれ。 「お次の方―! 出場ナンバー 三一四番のかたぁぁ」  俺たちの番だ。 「ポーズは俺が壇上でやっから。お前は棒立ちしてろ」 「は?」 「そんで、これはいらねぇ」 「ああああ!」  またあとで縫い付けとけよ。もしも、再挑戦を幼馴染とするんならな。俺とのコンビでやるんだったら、胸のところの階級章はいらない。 「ほら、行くぞ」  お前は新兵役だから。 「優勝狙うからな」 「へ? あのっ、庄司せんぱああああ」  山下の絶叫無視で詰襟を鷲掴みにすると、コンテストの壇上へとそのまま連れて行く。 「おい、新兵」 「んひゃ?」 「姿勢を正すことも忘れたか?」  その顎をクイッと白手袋をした手で持ち上げ、きゅっと、きつい視線で射抜いてやれば。 「きゃあああああ」  ほらな。上官と新兵のイケナイあれこれが妄想できて楽しそうだろ? 会場の黄色い悲鳴に底意地悪い笑みを見せば、山下が素で肩を竦めて身を縮めた。

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