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王道バレンタインSS 3 三年目の浮気
どうした?
そう訊くと、平気、とだけ呟いて俯いてしまった。でも、帰りたいと言った要の色香に当てられて、俺もそれ以上何も言わず、ただ二人ともろくに話さず家路を急いだ。
俺は、帰りの間、ずっと、要の、ピンク色をした、甘い香りでもしそうな耳からうなじを見つめてた。
「待ってろ。今、鍵開けるから」
「ん」
「立ってられる? 手、貸す」
「っ、ん、平気、今、触らないで、くれ」
熱? 風邪? そこまで体調悪かったか? 朝、俺と会社に行く時は変わらなかったよな? 今日の要は一日決算前の計算とかに追われてずっとデスクに貼り付いていた。俺は外周りが午前も午後もあったから、会社には荷物を置いて、ミーティンだけ出てすぐに外出だった。
帰社した時も、普通に厳しい表情の「課長」をやってた。
「要、開いたぞ、先に、……っ」
けど、今の要はその面影なんて一ミリだってない。
何があった?
まさかバレンタイン当日の今日、俺が外出で、いない間に本気で誰かに媚薬入りチョコでも食わされたとか? なんてばかげたことまで考えながら、体調の悪そうな要を先に部屋の中へと案内した。
ふらりと揺れるように歩いて、要が。
「ン、高雄っ……」
「!」
俺に体当たりと変わらない勢いで抱きついて、口を開いて、そのまま齧り付くように、キスを、した。
「かなっ……っ」
「が、まん、した」
「はっ? っ……っ」
途切れ途切れ、甘い声で囁かれて何がなんだか状況を把握できてない俺は訊きたいのに、要の舌が邪魔をする。差し込まれて、しゃぶって欲しそうに喉奥までその舌先を一生懸命に伸ばしてくる。身体を擦り付けて、気持ちよくなりたいとわがままにせがむ、しなやかな猫みたいに。
濃厚で深くて、飲み込めなかった唾液が唇の端から零れるような、セックスみたいにとろりとしたキス。
そんなんされて。
「ッチ」
勃たないわけ、ねぇだろ。
「ぁ、高雄っ、や、待っ」
心配よりも興奮が、欲望が勝っちまう。熱なら、風邪ならこっちに寄越せよって、適当な理由をくっつけて柔らかい唇を貪った。舌伝って、体液に沁み込ませてこっちにそれを移しちまえばいいと、濡れた舌を絡ませて。
「ベッド、行くぞ」
「あ、ン」
抱きかかえると抵抗もなくしがみついた。
ぎゅっと腕で首に掴まって、脚を開いて、俺の腰に巻きつけた格好をしてる花織課長なんて、誰も想像できないだろ。
「? 要?」
「……」
「なぁ、これ」
「っ」
落っことさないように抱え直した時、ふと、感じた違和感。けど、それは、何も答えず抱きつく腕に力を込めた要の様子で確信に変わった。
「……何? これ」
ゾクリと、やばいくらいの興奮がこみ上げてくる。
「要」
ベッドにそっと下ろして、逃げられないように腕を檻代わりに上から覆いかぶさった。名前を呼ぶと少しだけ身体がピクンと反応する。けど、答えはなし。
「なぁ、上も?」
「……」
また無言。でも、今度は小さく頷いた。そして、なんにもないはずの、可愛い乳首がふたっつあるだけの胸に手を当てると、さっきと同じ違和感を感じる。そして、喉んところが焼けたみたいに熱くなる。欲が腹のところで暴れ始める。指を少し曲げてそのまま右へスライドさせたら、シャツの合わせ目から中に侵入できるけど、しない。
見たいのは、剥かれるあんたじゃなくて。
「いつから?」
「……」
「ねぇ、要」
暴きたい、って暴れるけど、見たいのは、自分で晒した時のあんたの顔だ。
「……朝、から」
だから、なぁ、見せて。
「バ、バレンタインだろう?」
「……」
「ネットで買ったんだ。ま、前に白い猫耳を買ったサイト」
あそこで? 猫を可愛がる俺を見て猫になりたかったあんたが探し当てたただのエログッズんとこ?
「せ、セクシーバレンタインセットというのを購入した」
「は?」
「ラ、ラ、ランジェリーとホワイトチョコレートがセットになってるんだ。えっと、コートの内ポケット」
言われたとおり、要のコートの内側を探ると小さなビニール袋の簡易的なラッピングをされた小瓶が出てきた。
ラベルには「ラブミルク」って書かれてる。そんで、原材料のとこにはホワイトチョコレート。つまり、あれだ。ホワイトチョコのソースがあって? それを? お好きなところにかけて召し上がれみたいな? オヤジの好きそうな女体盛りっぽい、セックスプレイ? ってやつ?
「こ、今年のバレンタインは! 刺激的に! ってあったんだ!」
そう必死になって涙目で宣言されても。
恥ずかしかった? なぁ、そんな下着つけて? ラブミルクなんて、ただのエロアイテムまた買って?
「中、どんなふうになってんの?」
「……っ」
何、してんの?
「ねぇ、要、教えてよ」
たまんねぇ。
「要」
口元を手の甲で隠しながら、そっぽを向いたまんま、ちらりとこっちを見上げて、ようやく声に出して答えた。音がするくらい、その欲を唾液と一緒の飲み込んだ。
おずおずと自分のシャツに指をかける。細くて白いその指がシャツのボタンを外していく。ゆっくり外して、そっと白く清潔なシャツを翻す。
「こんなふうに、なってる」
そして、要が自分で晒したのは、透けてるレースで胸元を覆っただけのブラ。下はベルトを緩めて、下着ごと下に引っ張って半裸の状態で見せびらかしてくれた。ブラと同じデザインで透けてる小ぶりのパンティー。
「あんた、これ履いて、会社のトイレ、行ったわけ?」
「い、急いでした」
しかも、紐じゃん。これ、もう裸じゃん。あんたの大事なとこ、丸見えだけど? もう先走りで濡れてるパイパンのそこ、全部、見えてるけど。
「ほ、本当はどこかで着替えたかったんだが、それこそ着替える場所なかったから。だから、朝、から……」
「朝からスーツの中、この下着つけっぱで仕事してたわけ?」
「ン、ぁっ触らないでくれっ、布が擦れてっ」
「知ってる。すげぇ勃ってる」
びしょ濡れペニスも、可愛いピンク色の乳首もしっかり反応して、硬くなってるよ。
「花織課長」
「あ、やだっ」
「こういうのしたかった?」
エッロい下着着ながら仕事して、そのまんま、さっきあのパークの中にいたわけ?
「こ、こんなの、恥ずかしくて死にそうだ、でも、高雄に飽きられたくないから」
「……は?」
「もう交際して三年になる」
「……」
「三年したら、浮気するんだそうだ」
「はぁ?」
「三のつく数字は浮気の時期の到来だから! ここを乗り越えたら、次は十三年、だから、とりあえず、ここは頑張るしかないと!」
今度は、何、言い出したんだ? この人。
「そう思ったんだ!」
マジで、ホントさ。
「あ、飽きるか?」
ヤバい。
「その、浮気、したいか?」
バカ……になりそうなくらい、あんたにだけ夢中だっつうの。
「高雄」
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