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雨の日イチャイチャ編 1 毛はタンパク質でできている

「あ、そんな、ダメ、だっ、高雄っ……口に、ぁ、そんなされたら」  なぁ、要。 「あ、あ、喉がイガイガしたらどうするんだ」  鬼の花織課長がさ。 「ほっ」  ほ? 「ほぼほぼ」  ほぼほぼ? 「タンパク質だからって、このタンパク質は、ケラチンタンパク質なんだぞおおおお」  …………どんな夢を見てんだ。つか、毛の成分とか知ってんだな。知ってそうだけど。育毛どころか無毛地帯の開発のためっつって、めちゃくちゃ毛のこと調べてそう。それこそ、猿人類の毛と今の人間の毛の違いとかまで知ってそう。 「要」 「う、うーん」 「要」 「うーん、うーん、毛」  どんなだよ。あんたの寝言。 「おい、要っ! 終点だぞ!」 「それは困る!」  あ、そこは、なんかサラリーマンっぽいな。 「あ…………ぇ、毛……毛っ?」  どんだけ毛っていうんだ、あんたは。終点ですよ、に慌てて飛び起きて、そんで、寝惚けながらも自分の股間をまずチェック。まるで、ドラマの冒頭ワンシーンみたいな感じだけど、確認したのは下着のありなしじゃなくて、毛のありなしで。 「毛……」  いや、そこで寂しそうに言うなよ。マジでどんだけなんだ。 「……高雄」 「はよ。うなされてたぞ」  毛、のことでな。 「……そう、か」 「なんか、怖い夢見た?」  毛、の怖い夢ってなんなんだ。俺の口で要の毛をどーすんの? なぁ、なんで、イガイガしてんの? 何? 俺、妖怪か何かですか? 「……」  返事としては、なんでもないって言うか、平気って言うか、そう予想した。けど、俺はもうわかってる。この人が俺の予想の斜め上を突き上げるブチ貫いていくことを。 「陰毛が生え揃う夢を見たんだ」  ほらな? やっぱり斜め上だった。 「……歯?」 「だから、陰毛が」  いや、「は?」って聞き返したんじゃなくて、生え揃うって何? 歯? って言う意味でのクエスチョンマークだったんだけど。つか、陰毛が生えた夢で、うなされてて、そんで夢の中の俺は喉がイガイガするって……食ってんの?  うなされるだろ、それ。 「陰毛が」  何回、その単語連呼すんだよ。懐かしいな。要がうちの営業課長になって日が浅い頃、パイパンって連呼されたのすっごいインパクトだったな。めちゃくちゃ怖い顔しか見たことない鬼の課長が連呼するR指定ワード。 「陰毛がすごくたくさんモジャモジャに生えて」  えー、ちょっととかじゃなくて? モジャモジャ希望なの? 要のそこにモジャモジャ? 毛モジャ? 似合わないだろ。どー考えたって微妙だろ。 「嬉しくて、裸のままでいたら、大事な会議の前日に風邪を引いた夢を見た」  ある意味、真面目な要らしいな。うなされるほど風邪を引きたくないと思ってるのが、まさかの大事な会議かよ。わが社的には課長にはそのくらいの気概でいて欲しいかもしんない。でも、フツーはもう来週にやってくる社員旅行イン沖縄、とかのに行けないかもしれないとか、考えるもんじゃねぇの? もう部署の皆、少し浮かれて気持ちは沖縄へすでに旅立ってる奴だっているくらいなのに。 「どうしようかと思った」 「そんなにかよ」 「もちろんだ。とても大事な商談だったんだ」  いや、そんなに惜しまれても、それ夢の中だろ? とても大事な商談なら先週あんたが大成功に収めたばっかだろうが。  じゃあ、さっきの寝言は? イガイガって、あぁ、なるほど風邪で喉が「イガイガ」するっていうことか。口に、っていうのも薬とか水とかを口移しでってことなんだろう。 「すごい高熱だった。口腔計測だったが四十度近かった」  口ってそっちかよ。 「……びっくり、したんだ」  潤んだ瞳をしてた。まるでリアルでも熱があるみたいに濡れて艶のある瞳を伏せると、本当に睫毛が濡れてるように光をまとう。  陰毛はないのにな。体毛っつう体毛が本当に薄いのに、なんで睫毛はバサバサ音がしそうなくらいに長いんだろうな。 「……毛、生えたと思ったのに」  そう憂いの表情で呟いて、寝起きのあんたに見惚れる俺の、陰毛を撫でるなよ。  それでなくてもそそられてるのに。そんな物欲しそうな顔をして、見つめんなって。 「モジャモジャ?」 「わ、笑うなっ、すごく」 「気にしてる、っつうんだろ?」  こっちが欲しくなる。 「なんで? いいじゃん。綺麗で、好きだっつっただろ?」 「ン、でも、やだ、毛、欲しい」 「なくてもいいって」 「やっ」  ほら。 「パイパン、最高じゃん」 「ンっ」  撫でればツルリと綺麗な柔肌。それに少しだけど、すでに勃ちかけてた要のピンク色をしたペニスが反応してプルンと揺れた。  毛がない分、ダイレクトだろ? 俺の感触がさ。 「ン、でも、や、だ」 「やだっつってもどうにもなんねぇじゃん」 「でも、やだ、毛」 「頑固だな」 「ン、あっ」  ほら、もう勃った。しっかり硬くなってピンクが上を向いて起立ってしてる。 「毛、なんて、気にすんなって。その」 「や、やだっ……やなんだっ!」  大きな声だった。ぴしゃりと空気を割るような鋭い声だった。 「かな……」 「毛、なんて、じゃない」 「……」 「とっても大事な、すごく深刻な悩みだったんだぞ!」  そして、艶でも憂いでもなく。 「……高雄の、バカ!」  その瞳には涙がいっぱいに溜まっていた。その睫毛は涙で濡れていた。

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