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寝てる後ろで……編 3 鬼の目にも涙
裸眼で出歩くのなんて何年ぶりだっただろう。
「うー……うぷ」
「ほら、大丈夫か? あんた、乗り物こんなに弱かったっけか?」
「だって……うぷ……高雄の運転じゃないの、好きじゃない」
なんだそれって笑っているが、全然違うんだ。高雄の運転はとてもスマートで素敵で、これっぽっちも気持ち悪くならない。あまり覚えてないかもしれないが、デートの時に車で人が誰もいない湖に行った時だって、そうだった。右へ左へ、山道でぐらぐら揺れて絶対に気持ち悪くなりそうなのに平気だったんだ。
だから、高雄の運転以外はもう気持ち悪くなってしまうんだ。
「俺の運転以外はダメなわけ?」
「我儘だな」
「別に? つか、ほら、シャワー浴びたらすっきりするだろ」
「……うん」
ぼにゃりとした視界の中でも、自宅なら別に平気。でも、高雄と手を繋いでいたくて、そのままバスルームまで案内してもらってしまった。バレたら笑われるかもしれない。年上で、課長という立場で、しっかりしているべき恋人が、本当は、とてつもない我儘だなんて。
「出たら、声かけろよ? 拭いてやるから」
「……うん」
一緒に入ってくれないのか? なんてことまで言いそうになるほど、高雄にべったりくっついていたいんだ。仕事だって本当はもっと一緒にやりたいし、高雄の外回りについていきたいし、その途中で外ランチができたらデートみたいなのに、なんて公私混同甚だしいことを思ってしまうことも多々ある。経理にいる女子社員は高雄のことを好きだと、俺は推測しているから苦手で、もっとあけすけなことを言ってしまえば、ぶっちゃけその女子社員嫌いだし。
そうそう、この前あった同期会だって、高雄の同期にどうしてなれなかったんだって、意味のわからない悔しさで胸がいっぱいになった。
「……」
胸の内を全部吐露してしまったらきっと呆れられてしまうんだろう。
「……ブク」
もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。
「……ブクブク」
そしたら、この同棲だって。
「ブクブクブクブク」
「……要? 平気か?」
解消なんてことが……あるやも…………。
「……ブク……」
「要? おい、かな、要っ!」
しれないのかもしれないとか、無理かも、しれない。
本当に、そんなの無理かもしれない。
「というか無理だ! っ……?」
自分の寝言の声で目を覚ました。
ここ、ベッドだ。
「……」
そして、隣には高雄が眠っていた。
えっと。
そうだ。
眼鏡を壊してしまって、それで、帰りのバスにもタクシーにも車酔いして、ヘロヘロで、シャワーを……のぼせてしまったのか。
大失敗だ。
星座占い大当たり。
「……はぁ」
なんてことだ! って叫びたい。何時くらいなんだろう。いや、今が何時だろうと人様の迷惑になるから叫んだりはしないけれど。
あ~あ、今日は久しぶりに高雄をめいっぱい満喫しようと思っていたのに。仕事を頑張った自分へのご褒美に高雄エキスをたくさん補充しようと。
「……」
いや、高雄エキスっていうと何やら怪しいが、そういうことでは決してなくてだな。こうぎゅっとしてもらって、俺もぎゅっとして、ぎゅぎゅぎゅーっとしたら、疲れも何もかも吹っ飛んで幸せになれるからということだ。別に高雄のエキスを欲しいとかそういうわけでは……ないわけでもないけれど。
だって、セックスしたかったし。
でも、今からでも! 高雄を起こして! ほらもう車酔いなら治ったことだし。
いやいやいや……最近セックスしてなかったから、あそこ、ちゃんと準備しないといけないだろう?
会議だなんだで日中ヘトヘトで、夏の暑さの疲れがこの秋にドッと押し寄せてきてたのもあって、ここ数日はセックスしてなかった。いや、数えたら、結構な日数じゃないか?
「…………」
あ、セックスって脳内で連呼して、最近の情事を意識がある部分に関してだけだが思い出したりしたせいで。
「……っ」
ちょっとどうしたものか。
「っ」
ムラムラしてきてしまったじゃないか。
「っ……っ」
セックス、したくなってしまった、あ! 今、またセックスって言ってしまった。
「……っ、ン」
思わず声が零れたのは、ムラムラした自分をもてあますあまり身じろいで、高雄のシャンプーの香りに、こう、つまりは当てられたというか、発情してしまったというか。
背中向けて寝ている。腕枕をしてくれてない。セックスしないで寝てしまったし、久しぶりのデートは散々だし……呆れているのかもしれない。
「っ、ぁ」
私もセックスしたかったんだ。すごくすごくしたかった。
高雄に首にしがみ付いて、それでキスをされながら、蕩けた口で高雄の長い指を咥えて。
「ふっ……ン」
その指でお尻の孔をいじってもらう。一本目にきゅんと口を窄めたら、高雄が笑って全身にキスをくれる。孔が「もっと」って欲しがりになるまで全身くまなく舐めてキスされる。乳首を。
「あンっ」
摘んでもらって。
「っ、ン」
指を増やしてもらう。
「ん、ン」
高雄へ、そっと身を寄せると、高雄の体温が頬に触れる。温かくて、心地良くて、けれど、セックスの時にはその腕の中で溶けてしまうかもしれないと思うほど熱く、情熱的な腕。
「ふっ……ン」
高雄の匂いに興奮してしまう。
「あ……ン」
どうしよう。自分の指じゃ全然届かないのに。
「あぁっン」
高雄の背中に顔を近づけて、眠っている愛しい人の穏やかな寝息を聞きながら、愛しい人のペニスを想像して指で、ズボズボってしたいの。でも、中が硬くて、どうしよう。これじゃ、高雄のあの太くて大きいの挿らない。
「っ、ン」
もっとずっと太くて硬くて、立派で、熱い塊みたいなペニス。
今は指だけれど、指じゃなくて、高雄の猛々しいそれをいつも挿入してもらっている孔が恋しそうに目の前の人を欲しがってる。前立腺も、浅いところも、全部全部、この愛しい高雄のペニスが欲しいってヒクついて、お腹の底があの切っ先にいじめられたいって切なくなってる。
「あっ……ン、高雄」
もっと奥まで届く。もっと奥が好き。
手前も、快楽の粒になるまで何度でも、トロトロになるまで、高雄と。
「あんた、具合、もういいわけ?」
「!」
セックス、したい。
「車酔いで顔真っ青にしてたと思ったら、風呂場でのぼせて真っ赤になって。こっちはすげぇ心配したのに」
したいしたい。したい。
「こっちは、あんたを抱けるって期待して股間パンパンに腫らしながら必死に寝ようと務めてたのに」
高雄とセックスがしたくて、たまらない。
「あっ……ン」
「要」
「したいの、に……」
「要?」
大きく脚を広げた。
「ど、しよ。今日、悲運なんだ」
「?」
「だから、お尻の孔が高雄の太くて大きいの入らないそう、なんだ」
「……」
「星座、ワーストワンなんだああああ」
あぁ、本当に占いなんて見なければよかった。
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