122 / 140

電話しつつ……編 6 「鬼の花織課長」の自慢事

 まだ山下がなんか話してた。 「あ、ぁ、声」 「もう切った」 「あぁぁっ!」  俺がそう言うと、中が切なげに絡み付いて、途端に甘い甘い声がリビングに響いた。  聞かせるわけないだろ? こんな極上の喘ぎ声。  俺は挿入の直前、一方的に電話を切って、スマホをソファの端へと追いやった。そして、両手で要の細くしなやかな腰を鷲掴みにしてそのまま抉じ開けたんだ。 「すっげ……」  中は柔らかくて、熱くて、貫いた瞬間、奥歯がぎゅっと力むほど最高の締め付け。 「あっ……ぁ……高雄っ」  やっらしい。  しゃぶりついてくれる内側に、今にも、もっていかれそうなのを必死で堪えて。 「要」 「あっ……イッちゃ……た」  射精の快感を味わいながら、太く貫かれた快感にもしゃぶりつく、欲しがりな要の身体を逃さないように、腰を引き寄せて、最奥へ亀頭を捻じ込む。要は華奢な肩をすくめて俺のTシャツの内側に白を吐き出した。 「やぁ……ン」  手を前に持っていって探れば、毛の生えてない要のそこがとろりと滴り落ちた白のせいなのか、その前からこんなだったのか濡れていた。 「あ、あ、あ、あ、ダメ、だ。今、イッた、から」 「なんか、あった?」  普段のあんたならこんなことしないだろ?  仕事は仕事できっちりかっちりこなすこの人にしては、「要」と「鬼の花織課長」の境界線がぼやけてた。要らしくない欲情の仕方だった。中は柔らかく、前立腺はぷっくりとおねだりしたそうに膨らんでた。 「あ、何にも、な、い、やだ、ぁ、擦ったら、あ、あ」 「触られた? 同期の誰かに」  触られて、でも、そこは拒否ったけど、アルコールで少し理性が溶けた身体は火照ったままだった? 誰かに発情させられた?  酒が入ってんだ。目の前にはアルコールで紅潮した頬に潤んだ瞳のこの人がいる。そしたら男でも女でも、手を伸ばして触りたくなるだろ? この人のなんもかんもが媚薬みたいに甘いんだ。 「触られ、て、ないっ、あ、や、だっ……乳首、も、したらっ、あ、あ、あ、あ」 「中も、前も、トロットロ」  硬く勃った乳首を指先で摘んでから爪で引っ掻くと、気持ち良さそうに中がまたしゃぶりつく。 「あ、あ、あ、何も、ない、ただ」 「ただ?」  要が背中をしならせて、背後から覆い被さる俺に寄りかかる。腕を後へ伸ばして、ほっそい身体を捻って。 「高雄が恋しかった、だけ」  そう言って、擦り寄りながら、身体の奥で熱り立つ俺を締め付けた。 「あ、あ、あ、あ、だめ、だっ、高雄! 激しい、からっ、そんなの、イク」  そんなこと言われて、激しくせずに我慢できるわけないだろ。イッていいよ。毛の生えてないそこをトロットロにさせながら、カウパー滴らせながら。 「ソファー汚しちゃう」  そのソファで誘惑して煽ったのはどっちだっけ? 「あっン、イクっ、イっ、ぁ、潮、吹いちゃう」 「いいよ」 「あ、あ、あ、やだ、これっ」  興奮した? すげぇ、中が気持ち良さそうにキュンキュンしてる。俺のTシャツで包むように要のペニスを握って扱いてやると、要が腰を自分から振りながら、背後で激しく抱く俺に縋りついた。 「あっ」 「イク……っ」 「あ、あ、ああああああああっ」  放ったのは白じゃなくて。 「あっ……ン」 「要……」 「あ、もっと」  腕で、身体で、俺を引き寄せ離さないこの人を俺も、一晩、手放せなかった。  なんかあったんだと思った。  同期会で、襲われ、は流石にしなくても、なんかあったのかと思った。 「庄司さんのおかげで今回のプレゼン、最強な気がします!」 「……あぁ」  実際、なんか、あった。  同期会。 「それにしても、今日はなんか、落ち着かないですね」 「……あぁ」 「あ、また……」 「!」 「えーっと、庄司高雄、クンっている?」 「……俺ですけど」 「おおおおお」  出現したのは、中肉中背、落ち着いた雰囲気に眼鏡をかけた、要の同期? って少し疑いたくなる、絵に描いたようサラリーマン男性。確か海外への栄転が決まってる技術開発部の――。 「なるほどねぇ。あ、もしよかったら、うちの技術部に席、開けておくよ?」 「あー、いえ……あの」 「あの花織の一押し人材なんだ。ぜひうちに来てくれ」 「いえ、あの」 「ぜひっ」  手渡された名刺に名前が書いてあった。技術開発部の鮫島さん。さっき名刺をもらったのは海外営業部の田中さん。それから、開発事業部の人はすげぇ長かったな。かなり粘られた。 「はぁ」  技術開発の人がいなくなったのを確認してから、今日何回目かの溜め息をついた。 「やっぱすごいなぁ。庄司さんは」 「バカ、すごくねぇよ」 「えー、けど、技術開発に海外営業に、開発事業って、なんか凄そうじゃないですか」 「俺は営業だ」  このひっきりなしな来客と勧誘は、同期会のせいだ。  同期会で、どうやら要が自分の部下として俺のことを褒めちぎったらしい。褒めちぎって、でもどこの部署にもやらんと言ってたってさ。酔っ払って、ずっと、とても優秀な部下がいるんだと。あの鬼の花織課長がベタ褒めするんだ。どんな人材だろうと、休み明けの今日はずっとこの状態だった。  なんか、あったと思っただろうが。 「あ、花織課長だ。おかえりなさーい」  ったく。  なんかあったのかと思っただろうが。同期会のあと、なんか、要らしくない、すげぇスイッチが入ってたから。  ―― 高雄が恋しかった、だけ。  あれは誰かに触られたとかじゃなかった。ただ同期会で俺の自慢をしまくったせいで、自分がただ会いたくなっただけ。  そんで、いつでも我慢しがちで、欲しいものがあっても「いい、また今度で」なんてすぐに遠慮するあんたが、俺のことだけは我儘で横暴で、そんで誰にもやらんと独り占めしたなんてさ。  ホント、あんたは。 「あぁ、ただいま、山下」  俺の予想の斜め上を毎回、見事に。 「ただいま、高雄」  ぶち抜くんだ。その可愛い笑顔で。 「おかえり、花織課長」

ともだちにシェアしよう!