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通販でも斜め上を貫く編 4 モーニング、スイート
――なんかさぁ、最近、まぁ、なんつうの? マンネリ? やっぱ、同じ相手としてたらやることって変わんねぇじゃん? 刺激がだんだんなくなるっつうかさ。リアクションも読めるじゃん。どこどうやったらどうなるかっつうかさぁ。探り合いも楽しかったりするだろ? それがなくなるっつうかさ。だから、まぁ、こういうアイテムでちょっとメリハリ? 燃えるっつうか。
なんて、前に飲み会で同僚が話していたのをふと思い出した。媚薬をネットで買ってみたと。だから、今回、要が間違えて飲んだのが媚薬だとわかっても、そう慌てなかったんだ。身体に害はなかったと、その同僚が話してたのも聞いてたから。
俺はそれを聞きながら「ふーん……」って思ったっけ。
そんなに長い間同じ誰かと付き合うこともなかったから。飽きたら、まぁ、あんまりこういうと人格的に、どうかと思うけど、別れればいいだろって思ってた。
飽きたら、さ。
「……お、はよ……ぅ、高雄……」
飽きたら、さ。
「おはよ……要」
別れりゃいいだろって思ってた。
「……」
要はキュッと唇を噛み締めて、肩をすくめながら、変えたシーツに鼻先を埋めるようにし顔を擦り付けた。柔らかい黒髪がそのシーツと頬の間でくしゃくしゃになって、要の少し赤くなった目元をくすぐっている。
「熱とか……なさそうだな」
額に触れるとピクンと跳ねて、もっと顔をシーツに埋めた。
「ん……平気、だ」
「痛いとこは?」
「な、い」
「頭痛、喉の痛み、腫れ、唾飲み込む時は?」
「へ……き」
「なら、よかった」
治ったみたいだな。風邪の症状はなくなったらしい。
「……よくない」
けれど、要はそのままシーツの中に埋まりたいかのようにうつ伏せで身体に力を入れている。
「どうした?」
声をかけるとその度に裸の白い肩を硬らせて。
「め……面目ない……」
どこのサムライだよって笑いたくなるようなことを呟いた。
「……何が?」
でも耳は真っ赤。
その耳を指先で弄ぶと、くすぐったいのか身じろぎながら、顔面、そんなに擦ったらなくなるぞ? ってくらいにシーツにぐりぐりと擦り付けた。
「恥ずかしい……申し訳ない」
昨日、栄養ドリンクと間違えて媚薬を飲んだ要はもうトロットロ。中も奥も、全身蕩けて、ずっとイッていた。何度も啼いて、何度も悦がって、何度も甘ったるい声であられもなく喘いで、欲しがり屋だった。
「身体の熱、抜けた?」
コクコクコクと小刻みに頷いて。
「………………高雄」
「ん?」
俯いたまま。
「………………呆れたか?」
チラリとそのシーツから覗き込むようにこっちを見つめた。
「……そうだな、まぁ、驚きはしたけど」
媚薬なんて怪しいもの飲んでまで関係を保ちたいとは思わないけど。
飽きたら別れればいいだろって思ってたけど。
「呆れてはない」
「……本当か?」
「あぁ」
媚薬なんていらないくらい飽きることのない相手を見つければいいだろ、とは当時考えもしなかったな。
そんな相手を見つけられるとは思わなかった。
「……そうか」
要は、昨日散々あられもなく喘いだ赤色の柔らかい唇で、ほぅ、と安堵の溜め息を零した。
「けど、動物園デートは明日か、来週だな」
「え?」
「体調も気になるけど、でも、ほら……」
「……ぁ」
カーテンまで手は届かないけど、そっちを指差すと、要が晴れた日よりも随分薄暗いカーテンから差し込む光に天気がわかったようだった。
雨音はあまりよく聞こえない。
けど、残念、今日は雨らしい。そんなの天気予報では言ってなかったけどな。昨日までは曇りのち晴れの予報だったはずだ。要が毎朝、毎晩、天気を確認して教えてくれていたから。まるで、遠足が待ちきれない子どもみたいに。
「起きられるか? 腹、減っただろ。朝飯、簡単に作って……」
起き上がると、要の白い手が俺の腕に触れた。
「要?」
「あ、の……」
昨日は裸で寝た。要のトロットロになった身体をシャワーで流して、そのまま二人で裸で。
「呆れる、かもしれない……んだが」
「……」
「その」
普段、仕事の最中なら絶対にこんなふうに言い淀んだりしない花織課長がモジモジと。
「何? どうかしたか?」
「……あ、の」
可愛いよな。
「その、だな」
ここは俺の斜め上の展開じゃないといいんだけど。
「あ、あの、足りなかった、とかじゃないんだ」
そう、足りなかったわけじゃない。
「その……そうじゃなくて、なんというか、もっと」
もっと、ちゃんと感じたいんだろ?
「もっと、その……」
熱でトロットロに蕩けて、何かに促されるように、熱に飲み込まれたままのセックスじゃなくて。
「昨日のじゃなくて」
「……あぁ」
「もっと……ン、あっ」
いつものが、したいんだろ?
「あぁっ」
丁寧に快楽を味わいながらするセックスが。
「俺もしたい」
「あ……高雄」
媚薬を飲んだあんたは、それはもうトロトロでエロかったけど。
「ン……好き、高雄」
いつもあんたはエロいからな。
全然、媚薬なしでいい。そのまんまで充分。
「高雄」
やらしくて、可愛くて、甘いいつものあんたと。
「いつもみたいに、その……」
したいんだ。
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