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課長のひとり○○篇 1 出来心
ほんの出来心だったんだ。
二週間、別部署がやらかしたミスの尻拭いで、各部署から一名、泊まりの出張が言い渡された。会社がこのご時世で傾くかもしれないっていう大問題に、社一丸となっての対応をせまられていた。
あの人はクソがつくレベルのクソ真面目だから、率先してそれをやろうとする。二週間だぞ? はぁ? 二週間、あの人が他部署の奴らと同じビジネスホテル? は? そんで夕飯一緒に食って? 酔って? くにゃりとしたところを襲われて? あのぱいぱん見られるのか?
そんなん無理。それなら、クソレベルで面倒くさくても俺が行く。
そして、会社のために率先して、皆が嫌がる長期出張を引き受けた。めちゃくちゃ面倒だったっつうの。二週間も、客先の工場で仕事、肩身は狭いし、ホテルも狭いし。その鬱憤を晴らすかのように、夜は居酒屋に皆して行きたがるし。
それでも、必死こいて仕事をこなした。
自慢じゃないけど優秀だから、マジで必死にになってやりゃ、出張が終わる日を一日早く終わらせられる。本当だったら、土曜日にも食い込みそうだったはずの仕事を終わらせて、金曜の夜に帰ってきたんだ。
一日早い帰宅。
連絡しなかった。驚かせようっていう、ちょっとした悪戯心。そんなん、誰だって思いつくような、小さなサプライズ。喜んでくれたら、そりゃ嬉しいし。驚いた顔が見たいだけだし。
ただいまって、言って、予期せぬタイミングで俺が帰ってきたら、あんたはきっと頬をピンク色に染めて、嬉しそうに笑う――そう、思ったんだ。
ただ、その顔が見たかっただけなのに。ちょっとした悪戯心だったのに。
「あっ……ン、やぁっ……ぁ、もっと、奥がいいっ、あっあぁっ」
まさかあんたの、こんな姿を。
「あぁぁぁっン」
見られる、なんてな。
(エッロ……)
そう胸の内で呟いた。そっと帰って来て、そっと玄関開けて、リビングにいるだろうって思った。まだ、夜の九時すぎだし、ひとりでぽつんとテレビでも眺めながら、俺からの電話を待ってスマホ握り締めてるかなって。出張の間、夜にはどんな形であれ連絡をしていたから。声で、文字で、今何してんの? ってさ。
――今か? テレビを見ていた。
今、電話したら、あんたはなんて答えるんだろうな。
「あっ、あぁっ……ン、奥っ、欲しっ……ぁっ」
なぁ、ぱいぱんの股広げて、四つん這いで白くてやらしい尻を高く掲げて、腰振って。
「あ、ン、ここ、高雄、ぉ……ぁっ」
俺の名前を甘い声で呼びながら、二本の指で身体を慰めてるって、答えた?
「高雄の……」
「あんたが欲しいの、ここ、だろ?」
「え? あっ、やぁぁぁぁぁぁっン」
ずぶりと二本の指を咥えた孔の口に、もう一本指が追加されて、前立腺の近く、浅いところであんたが一番お気に入りの場所を突いた。その途端に孔の口をキュッと締めながら、イったりなんてして。
「あっ……高、雄?」
あんた、何してんの?
「ほ、んもの?」
俺のシャツ着て、俺の枕に抱きついて、鼻先うずめながら、二本の指でくちゅくちゅ音立てて、何やっての? あの花織課長がオナニーなんて。
「……あぁ、本物」
玄関を開けて、静かだなって耳を澄ませた途端に聞こえた甘い喘ぎ。要の声がとめどなく聞こえてきたのは寝室。何度も啼きながら、濡れた音を響かせてた。
あんたの中にある俺の指に、本当に本物か、自分の願望が作り出した幻なんじゃないかって確かめるようにしゃぶりついてきたりして。ねぇ……くそエロいんだけど?
「俺の……夢じゃ、なくて?」
「夢にしては、リアルすぎない? ここ、こんなに濡らして」
「やぁっ……ン」
指を抜いて、尻の割れ目を指先でなぞって、そのまま孔の口をひと撫でしてから、前に手を回した。ピンク色がやたらと綺麗で卑猥なペニスが俺の手に包まれて、ぷるんと揺れる。
「俺のシャツ」
「……ぁ、これは」
「それに俺の匂い、それオカズにしてんの?」
「ぁ……ぁ、ン」
エロすぎ。
「何? 二週間ずっと、こうして慰めてたの?」
エロい俺の上司がふるふると小さな頭を横に振る。してないって、今日、どうしても我慢できなくて、あと一日がもどかしくて、早く寝てしまおうと思った。明日になれば帰ってくるから、それまでの辛抱だからって。でも、そう思えば思うほど、会いたくなるだけで。苦しくて、手を伸ばしてしまった、なんて、そんな上擦った声で告白された。
「二週間、我慢したんだ」
「……」
ペニスいじられて、すぐに甘い声を上げて啼いたかと思ったら、もう硬くなった切っ先からトロトロな液をもらして、こっちを見上げる。まだ余韻が強く残ってるのか、脚をだらしなくわずかに開いて、エロい色した乳首と下半身をチラつかせながら乱れた呼吸で、俺のことを誘ってる。
腹んとこ、すげぇ痛いんだけど? あんたの姿見て、なんかが振り切れそう。
「高雄こそっ」
「は?」
なんで、俺? すげぇ怖い顔してんのに、吊り上がった眉の角度とか、まんま「鬼の花織課長」なのに、何、それ。可愛くて、萌え殺されそうなんだけど。
「お前こそ、む、向こうで二週間もっ」
「はぁ?」
「だ、だってそうだろ! お前がっ! めんどくさがりのお前が、どうしてあんな率先して出張なんて、俺はっ、俺はっ……俺……」
あぁ、ホント、イヤだ。
「俺は、俺に」
イヤになるくらい可愛い。何その三段活用的な「俺」の使い方。
「俺に飽きたのかと……夜、連絡が、四回、メールだった」
「……」
「電話できない場所にいるんじゃないかって、心臓」
壊したくなるくらいに可愛いっつうの。ムカつく。
「壊れるかと思ったんだぞっ」
ぱいぱんのそこ、そんなエロくさせて、乳首まで勃たたせて、オナニーで孔いじりやがって。しかも、俺の名前呼んで、俺のシャツ着て。俺のこと、呆れるくらい欲しがって。
「あんたを行かせられるかよ」
「……ぇ?」
「二週間、向こうで、製造部長なんかの酒の相手? は? 冗談だろ? こんなエロい身体して、酒飲んで、酔わされて、押し倒されたらどーすんの?」
「は? そんなわけ、製造部長の八坂さんは」
製造部長だけの話じゃないっつうの。そこ焦点合わせて突き詰めようとしなくていいから。じゃなくて、誰でもいいよ。よくねぇけど、誰でも相手はよくて、あんたが酔って、フェロモン撒き散らして押し倒されて触られても、俺は助けられねぇだろ。一部署一名選出ってなってるのに、俺も同伴ってわけわかんねぇし、あんたの力不足って言われかねないから。それなら、まだこっちにいてくれたほうがマシだろ。そのために率先して、俺は――。
「だから、八坂さんには奥さんがいるし、今年中学生になる」
「そうじゃねぇから」
必死になってそこ説明しなくていいから。例題だっつうの。モブイチだっつうの。
「そうじゃなくて」
マジで痛い。あんたのこと早く抱きたいって身体が軋んでミシミシ音を立てる。
「じゃあ、一体なんだ」
「二週間も出張で夜外食して、外ほっつき歩かれたら困るんだ」
「……」
「どっかの誰かに押し倒されて、触られたら、って」
「ないに決まってるだろ」
ミシミシ、目の前にいるこの人を抱き潰してしまいたいって、身体が音を立ててうるさい。
「俺が、抱いて欲しいのは高雄だけなのに」
「……」
「俺がもしも、何か誘ってるように見えるところがあるとしたら、それは誰か、じゃなくて。お前のこと、さ、さ、さ」
あぁ、ホント、一日早く仕事を終えられる能力あってよかった。
「さ、誘っているんだ。抱いてくれって」
明日じゃ、あんたのこのヤラシイ姿は見れなかった。
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