74 / 140

課長のひとり〇〇篇 4 課長、クッションになる

要不足がようやく解消した。しっかり腹いっぱい堪能して、ゆっくりリビングで満足感に浸りながら、仕事のメールをチェックする。そんな俺の後ろにはシャンプーの香りをさせた要が頬を真っ赤にして。 「それで! お前は! 夜、文章だけで済ませてた時は! 何をしてたんだ!」  怒ってた。とりあえず、吊り上がった眉毛がかなり可愛い。 「んー……? あ、やべ、領収書、持って帰ってきちまった。は? 何このメール、月曜始発で俺また日帰りで別の出張とか」  あぁ、最悪。出張終えたばっかなんだけど? その出張でのメキメキとした働きっぷりが好評だったらしく、社長にまで報告されていたのか、社命でまた出張が言い渡されている。  マジかよ。  めんどくせぇ。しかも、領収書全部俺が持ってるから、経費の計算も俺がやる、とかだったりして。経理のあの部長、苦手なんだよ。あれ、毛が薄いことをめちゃくちゃ気にしてる部長さん。一回、あそこのカウンターで「毛」って呟いただけで、今でも睨まれる。っつうか、そんなんだから、そんな肝っ玉の小ささだから禿げるんだろ。別に毛くらいどうってことないっつうの。 「おい! 聞いてるのか?」  でも、この人の場合は「毛」とか、ホント、こっちが萌え禿げる。ぱいぱんなのは相変わらず。でも、この前、ヒゲが生えたって大喜びしてた。可愛すぎて押し倒して、襲いかかろうかと本気で思ったくらい。 「……」 「おい! 高雄っ!」  無自覚こえぇ。無防備、マジで、こえぇ。 「キャバクラ……とか、行ってたんじゃ……ないだろうな。綺麗な女性、とか」  今ぎゃんぎゃんと耳元で怒鳴り散らしてたかと思ったら、急に沸き起こった不安に襲われるとか。小さな声でポツリと、綺麗な女性と飲んでたのか? って、蚊の鳴くような声で呟かれた。  は? 綺麗な女よりも綺麗で、しなやかな身体した女よりも抱き心地がよくて、世界一可愛い恋人がいるのにか? どんな高級クラブのトップにねだられたって、いらない。あんたじゃなくちゃ満足しなくなったのにか?  こんな可愛くて綺麗で、エロくて、やらしい上司がいるのに? 「なぁ、要」 「なんだ! それじゃあ、クラブかっ」 「ありえねぇっつうの。それより、なぁ、なんで、俺の後ろにいるわけ? 前来いよ。こっち」  帰って来てセックスしてシャワーも終えて、夕飯済ませて、そしたらなんでか、要がいそいそと俺の後ろに回り込んだ。広いソファで俺は背後にあんたがいるから潰さないように前のめりで座ってる。普通に窮屈だろ。そんなところに挟まるようにして陣取って。それに、身体が小さいあんたがそこにいたって、背もたれ代わりになんてなれそうもない。なれて、クッション。 「やだ、ここがいいんだ」 「は? 俺が寄りかかれねぇじゃん」 「寄りかかればいいだろう」  だから、それしたら、あんたが潰れるだろ。 「ここがいい……」 「要?」  俺とソファの間に割り込んで狭苦しいそこを陣取って、こてんと頭を俺の肩に預けた。細い手を伸ばして、ぎゅっと抱きついて、ひとつそこで深呼吸をする。肩のところで要の吐息がうなずをくすぐる。 「高雄の匂いがする」 「……」 「気持ちイイ」  あぁ、ホント、なんだろ、この人。どうかこれが計算であってくれって願ってしまう。たしかに、鼻をスンスンならし、肩口にぐりぐりと整った形の唇を埋めてる。  帰って来てすぐ、何回したっけ? 俺は、何回あんたの中でイったと思ってんの? それなのにどこの中高生のガキだよ。また、盛りそう。 「さっきの質問」 「へ?」 「キャバクラもクラブも行ってねぇし。浮気になりそうなことはひとっつもしてない。あんた、さっき確かめなかったの?」 「ぇ? いつ?」  さっきだよ。ちょっと前。夕飯を食べる前。 「あんたの中に二週間溜め込んだ、濃い精子、たんまり注いだだろ?」 「!」  俺の匂いをずっと嗅いでいる要の手首を掴んで、引っ張って、唇にキスをした。舌がぴちゃぴちゃやらしい音を立てる、エロいキス。 「……ぁ」 「もうそこまで濃くないけど、でも二週間、あんたのこと抱いてなかったから、まだ、いくらでもやれるよ?」  ちょうどベッドと俺の身体に挟まれてるあんたは逃げることもままならない。それをいいことに、唾液が伝い零れるくらいに激しいキスで、仕事の時は厳しいげきを飛ばす唇をたんまり犯した。 「したい?」  まだ、イけるよ? 「ぁ……」  あんたの中でなら、何度でも。 「……うん……したい」  エロくてスケベで可愛いあんたに盛らないなんて、到底、無理だから、自分からその「欲しい」っていう衝動に飛び込んで堪能した。 「やっと帰ってきたぁぁ」  二週間ぶりの職場――に懐かしさなんてものを感じるよりも早く、荒井さんが俺を見るなり半泣きで飛びついてきた。 「会いたいオーラがハンパなくて」 「……は?」 「もう、なんていうんですかね。フェロモン? 垂れ流しっていうんですか? とにかく、この部署内では大丈夫でも、あんな顔され。男、即、落ちる!」  なんで、片言なわけ? っつうか、そんなに? あの人? 「マジ、やばかったです」  荒井さんがとりあえず片言になるくらいにはフェロモン垂れ流しだったらしい。 「やばすぎて、外出させられないくらい。じっとしててくださいって言い聞かすの大変だったんですから」  俺はてっきり、めちゃくちゃ張り切ってたんだと思ってた。俺がいない部分を仕事で埋めるみたいに、メキメキやってたと思ったのに、結果は正反対。鬼の花織課長はなりを潜め、甘くて極上のお菓子と貸した要がそこのデスクに座っていた、なんてな。  マジで予想外だった。だって、ほら、今デスクに座ってるのって、どう見たって「鬼の花織課長」だろ。 「おい、この見積もり」  眉間の皺はご健在。それどころかパワーアップしてる。鬼のっていうか、ほぼ、鬼。 「あ、すみません。なんか違ってました?」 「いや、こっちに来い」  そして連れ去られた先は営業の注文書がたんまり保管されている少し埃っぽい部屋の片隅。 「要?」 「ン……ちょっとだけ、補充」  そして、俺の首筋んとこで深呼吸を一回。顔を上げたら、そこには俺のツボをゴリゴリに押してくる、フェロモン垂れ流しの恋人がいた。 「なぁ、要」 「ン、ぁ、耳元で囁くな」 「俺のシャツ着てくれば? 今度、俺が出張の時、あのシャツ。オナニーのオカズにしてた」 「……ぁ」  耳まで真っ赤、ってことは、そのスーツの下、隠れてる部分も色付いてる。 「やだ……我慢する、から、高雄自身で補充してくれ」  あぁ、これは、たしかに、大変だっただろうな。フェロモン垂れ流しっつうか、溢れ零れてて、恋人の俺でさえ我慢できず押し倒しそうで、思わず苦笑いが零れたよ。

ともだちにシェアしよう!