137 / 140

ホワイトバレンタイン編 5 ホワイトスイーツ

 なぁ、さっきまで和やかな感じですき焼き食べてなかったっけ。  コンペが終わって、今にも切れそうなくらいに張り詰めてた緊張の糸。 「おかえり」って言いたかったからと毎回長引く会議をしっかり切り上げて、先に帰ってきてた要の笑顔で、その糸は張り詰めたまま切れるのではなく、緩んで、解けて……った、んじゃなかったっけ。  ホント、要は俺の予想の斜め上をいく。 「は?」 「ふへ」  手作りチョコレートってだけでも、最高なのに。  ブラウンのチョコレートだと思ってた。  けど、ホワイトチョコレートだった。  その格好も予想外。  デカめのスウエットの上だけを着て、素足のまま、正座でベッドのど真ん中に座っている。  シャワーも浴びて、セットもされてない柔らかい髪は普段職場にいる時よりもずっとあどけなく、甘い雰囲気を漂わせてる。  その格好で、口に咥えて、とか。 「要」  最高。 「ふ、ふはは、ふほ、ふほほほふほ、ほへへへへっ」  なに言ってんのかこれぽっちもわかんねぇし。 「ふへっ!」  待て! って、言ったのか? 手のひらを広げて、パッと前に出したと思ったら、そのまま、ベッド脇に置いてあった画用紙に、綺麗な字で何かを書き始めた。   『これは食べ物を粗末にするとかじゃないからな』  だそうだ。  それをホワイトチョコのトリュフを口に咥えたまま伝えてみたけれど、上手に伝わらないから画用紙に書いたってこと……なんだろう。うちに画用紙なんてものはないから、買っておいた……のか?  で――。 『今日は、バレンタインだったんだ』  画用紙をめくり、今度はそう綴った。 「知ってる」 「!」  そう答えると、目を丸くしてる。そして。 『えっ!』  いや、それ、綴らなくても、表情でわかったし。 「バレンタインなのは知ってたよ」 「……」  いや、だから書かなくもていいよ。えええっ! って文字にしなくても。真面目かよ。真面目だけどさ。 「そんで、それくれるの?」  その愛しいくらいに真面目な要は一歩、ベッドの側に歩み寄ると、頬を染めながら、こくんと頷いた。それから、また思いついたようにペンを握って。 『バレンタインのプレゼントなんだ』  そう綴ってる。 「口移し?」  今度も丁寧で綺麗な達筆で「うん」と綴って、それを両手で俺へよく見えるように向けながら、口に咥えている白い粒を向ける。 「……エッロ」  そう呟いて、要に手を伸ばすと赤く染まった頬を俺の手に擦りつけながら、長い睫毛を伏せて。 「……ン」  唇に咥えられてる白い粒をキスと一緒に齧ってみせると、小さく甘い声が要の甘ったるい香りをまとった吐息と一緒に零れ落ちた。  丸い白は唇と唇の間であっという間に溶けて、舌に絡みつく。 「……ん、ン」  甘くて、喉奥が燃えるように熱くなった。 「ぁ……ん」  ホワイトチョコはブラウンのチョコレートよりもずっと甘くて。 「……ん、美味しかったか? 高雄」  それを何より美味そうな唇ごと食ったら、余計に甘くて、蕩けて。 「……は、ぁっ」 「少し、洋酒も混ぜた?」 「ん」 「めちゃくちゃ美味い」  褒めたら、瞳を輝かせて。 「要、舌出して」 「?」 「もう一個食べても?」 「ん」  思いついた悪戯。 「……」  差し出された皿に乗った真っ白な一粒を。 「要」  この人の舌の上に乗せる。 「あっ」  洋酒のせいなのかもな。それとも、生クリームのせいとか? 買ったのとは違う一粒は舌の熱さになんなく蕩けて、溶けて、とろりとその舌先から零れ落ちそうになる。 「あと」  まるで、舌先で溶けたそれは――。 「めちゃくちゃ興奮する」 「っ」  要が身震いして、興奮してる。 「俺のを咥えた時みたいになってるよ」 「ん」  正座している要は下腹部の辺りをギュッと手で握って、頬を真っ赤にしながら、蕩けた白が溢れた唇と舌を見せてくれる。口でしてくれた時みたいに。 「あ」  溢れちゃうと、呟こうとするその唇にキスをして、舌を濡らすホワイトチョコレートごと食べるようにまた舌を濃厚に絡み付かせると、はしたない濡れた音が寝室に溢れてく。  溶けて、蕩けて。  甘くて、熱くて。 「癒された、か?」 「?」 「コンペ、疲れただろう? だから」  小さく呟いて、ベッドの上に座った俺に跨るように、柔らかく白い太腿を晒した要が腕を絡ませて抱きつく。 「甘えて、いい」 「……」 「い、い、いいいい、癒して、あげる、ぞ」 「……それ」  聞いてたのか? 「コンペの直前、声をかけようと思ったら、そう言ってた、から」 「……」 「これで、それ、できてるかわからないが、でも」 「できてるよ」  めちゃくちゃ甘えて癒してもらうとか。 「すげぇできてる」 「そうか? なら」 「……」 「ん」  もっと甘さが濃くなった気がした。  もう一粒、要の舌から差し出されたご褒美をキスと一緒に味わう。 「よかった」  洋酒のせいじゃなく、喉奥がジリジリと熱くなって、身体の芯が火照り出す。そして、要の肌に服の中へ忍び込ませた指先で触れると。 「あン……ン、高雄」  要の体温が上がったのか、キスしながら食べたホワイトチョコの濃厚な甘い香りが要の肌からした気がして。 「もっと、食べて……」  一番のご馳走を頬張るように、要の白くて繊細な首筋にキスをした。

ともだちにシェアしよう!