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ホワイトバレンタイン編 7 マッサージ機ですって

「要」 「?」  寝る直前、さっきまでやばいくらいにエロかったはずの、今はあどけない要を呼ぶと素直に顔を上げた。  職場では外回りでも乱れることのないようセットされているけれど、何もしなければふわふわの要の髪は、プライベートにいる時だけしか触ることができない。そのふわふわな前髪を揺らしながら首を傾げつつ、要が差し出されたギフト用にラッピングされた箱を見つめてる。 「バレンタインだろ? 俺からは、チョコじゃなくて、それ」 「俺に?」 「あぁ、大したものじゃないけどな」  何がいいか考えたんだ。ネクタイとかもいいけど。  ネクタイならいくら持ってたって困ることはない。日々スーツで過ごすサラリーマンにとっては一番無難で、一番無駄にならないギフト。でもそれにはしなかった。 「なんだろう」 「当ててみて」  いつも俺の斜め上、予想外ばかりしてくれる要に、俺もたまには予想外のことがしてみたい。だから、ネクタイにはしなかった。 「う、うーん……」  一生懸命考えているところがおかしかった。普段、仕事ではどんなトラブルが発生したって、慌てることもなく、まるでそのトラブルを予知していたんじゃないかってくらい、上手く即座に対応できる要が、考えて込んでいる。 「うーん……」 「じゃあ、ヒント」 「ぜひ!」  そんな前のめりになると思ってなくて、思わず笑ってから、その両手で抱えてくれた箱を指先でトンとノックしてみせた。 「振動する」 「振動? え、えぇ……」 「気持ち良いと思う」 「えええええっ!」 「試して確認した」 「試した! かかかか、確認!」  ぷは。 「持ち運びもできるっていうから、会社でも休憩時間に使えると思うし」 「えええええっ! そ、そんな、会社では、ダメだろう! ちゃんと仕事しないとだぞ!」  さて、なんだろう。  何を予想したんだろう。  中身を何と思ってるのか、なぜか頬を赤くしてる。 「そ、それは、その」 「要?」 「ま、まぁ使ってみても、いいけれど……だが、その、俺はそんなのしなくても、今のままで充分、その、なんだ」  真っ赤になりながら、ゴニョゴニョと何か喋って。 「? 要」 「高雄のがいいというか……」 「…………普通の、マッサージ機だぞ」 「! え、えぇっ! あ、そう! そうなのか!」  もっと真っ赤になって、大慌てだ。 「なんだと思ったんだ?」 「あ、いやっ、違うんだっ、そのっ、振動するっていうから、別に、うんっ、そうだ。マッサージ機だと思ったぞ!」  本当に? と訊くように首を傾げると、あどけない、でも、職場では饒舌に会議も打ち合わせだって進められるその口を開けて、冷静沈着、鬼の、なんて言われてる整った綺麗な顔を真っ赤にしながら、どう自分の思いついた答えを掻き消そうかって。  選んだのはちゃんとした健康器具の方のマッサージ機だ。肩こりにいいらしくて、掌サイズで一見すると握力強化のトレーニンググッズのようにも見える。その先端が丸くなっていて、それを凝った部分に押し付けるといいらしい……んだけど。 「大人専用の方だと思った?」 「!」  訊くと、飛び上がるように肩を竦めて。  本当にさ、この人は俺の斜め上のことを常にしてくる。 「じゃあ、ホワイトデーはそっちにするか」 「し、しないでいいっ! 違うんだ! 振動するっていうから、その、なんだっ、つい。あ! 使ったことなんてないからな!」  めちゃくちゃ慌てててる。  使ったことは、まぁ、ないよな。出会ったっていうか、最初の頃の要なら。 「ただ、その大昔、じ、自分の毛の……薄さにすごく悩んでた時期に、たくさんそのいかがわしい動画でそういうマッサージ機を使って、いやらしいことをしてたのを見たことがあったからで……だからなだけで……」 「あぁ」  今はもうそんなに悩んでないし、と段々小さくなる声に思わず笑いながらその言い訳を聞いていた。 「だからなだけでっ」 「あぁ」 「だから……」 「使ってみてもいいんだっけ?」 「!」 「大人専用マッサージ機」 「んひゃ!」  そのおかしな返事に思わず笑って、まだギフトボックスを握りしめたままでいる要の唇にただ触れるだけのキスをした。 「でも、俺のが一番いい、んだっけ?」 「ぁ……当たり前だ」  もうシャワーも浴びて、スッキリしたはずなのに。  唇で触れると、要から甘い香りがした。 「高雄がいいに決まってる」  ホワイトチョコみたいに、甘くて、元気になるし、癒しになるし、最高のデザートの味がする。 「ありがとう、マッサージ機、使わせてもらう」 「あぁ」 「あと……」 「?」 「癒しに、なったか? その、コンペ頑張った高雄の」 「もちろん」  さっき照れて真っ赤になってたくせに。 「よかった……」  あのさ。 「たくさん頑張ってたから」  ふわりと、笑って、ふわふわになった柔らかい髪に、柔らかい笑顔に、柔らかい唇に、指先に。 「要」 「明日も仕事、頑張ろうな」 「あぁ」  ――ホワイトチョコはエネルギー補給にぴったりなんだそうだ。それにリラックス効果もあって、疲労回復にもいいって、だから……。  エネルギー補給は要にしてもらってる。リラックス効果は触れたら抜群。疲労なんて、吹き飛ぶ。  ――コンペ終わったーってめちゃくちゃ甘えて癒してもらうのになぁ。  要がいたら、きっとなんでもできる。  どんなコンペだって、仕事だって、やるよ。 「お疲れ様……高雄」  貴方に見合う男になるためなら、なんだって。

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