「本当に猫舌なんだな」 　あの花織課長がいつまでたっても鍋の肉団子が食べられずにいる。一生懸命に冷ます様子をテーブルの角を挟んで斜め横から頬杖つきながら眺めていた。 　知らなかった。あの鬼の課長がすげぇ猫舌なんて。昼飯を誰かと一緒に食べることもないし、飲み会だってこの前のが初参加だったくらい酒の席にも顔を出さないから、猫舌かどうかなんて知っているわけがない。そのくせコーンポタージュが好きだなんてことも、誰も知らない。 「なぁ、猫舌の人でも熱いのを食べる方法があるって知ってた？」 「え？　そんな食べ方があるのか？」 　まさかそこまで目を輝かせて聞きたがるとは思ってもいなくて、ちょっと驚いた。 　でも、まぁ、これだけ熱いものが食えないと不便なこともあるんだろうな。いっこうに食べられずにいる要の隣で猫舌じゃない俺は普通に食べていた。それをうらめしそうにチラッと横目で見ては、口をへの字にしつつ、また肉団子を冷まそうと頑張っている。眺めてるだけで楽しくなれる鍋なんて初めてだ。 「舌の先、ここんとこ」 「ン」 　唇に触れると、レンズの奥の瞳が少しだけ見開かれる。でも素直に唇を開いてくれた。指で舌の先を突付くと、鼻にかかった甘えるような吐息が手の甲に触れる。ちょっとエロく息継ぎをされると、今、鍋を詰め込んだ腹の下の辺りがじんわりと熱くなった。 「ここで熱を感知するんだって。だから、そこに触れないように、奥の、この辺りに食べ物を置けば」 「……ン」 　柔らかい舌の、奥の、こどの辺りなのかを指で押して教えた。少し深いところを指でまさぐられて、要の声が一段とエロさを増した。 「ん、高雄っ……これ、やら……」 　何、その舌ったらず。すげぇツボ。指が邪魔で口を閉じられない要は溢れて零れそうな唾液のことが気になって、涎を垂らしそうになるのが恥ずかしくて、目を潤ませて「やら……」なんて呟いて。 「ンっ……んふっ……ン、ん」 　ゾクゾクしすぎて、鍋よりも食べたいものができた。 「ンっ」 　要の舌先、熱いものに敏感に反応するところを舌で突付いて、こっち、って囁いてから、舌の深いところ、喉奥へと大胆に舌を差し込んだ。ここ、ここに食い物を置くと熱くないんだって教えるように舌先を擦り付けて、唇の端から唾液が零れそうだから指を添えた。 「ン、んく、ひゃ、ぁっ……ン」 　要は敏感だ。あと、けっこう快楽に弱いっつうか、エロい。 「たか、ぉ……ぁ、舌」 　口の中も性感帯とかスケベすぎて目が眩む。 「ジンジンしてんの？　要」 「んっ」 　キスを止めてやると、喉を鳴らして溢れた唾液を飲み込んだ。その姿にまたなんかツボを押されて、もう無理っぽい。社内で、ふたりで帰り道に寄って鍋の食材を買い込んだスーパーで、何度もこみ上げては押さえ込んだ衝動が、もうさすがに限界だって暴れ出す。 「高雄……」 　俯いて、んく、って音を立てて何かを飲んで、俺の名前を呼びながら見上げた要の色気に上せそう。猫舌じゃないのに、火傷をしたらこんな感じなのかもしれない。要の舌とぐちゃぐちゃに擦れ合った自分の舌がジンジンと痺れてた。 「高雄の彼女ってどんな感じの女性だったんだ？」 「は？　何、まだ気にしてんの？」 　そこで要が俯いた。少しだけ間を置いて、こっちを見上げた瞳がゾクゾクするほど濡れている。 「俺はキスそのものが初めてだからわからないんだが」 「……」 「こんなに気持ちイイものなのか？　それに、こんなキスを高雄が他の誰かに……」 「あんたにだけだっつうの」 「……ぇ？」 　食事の最中にキスしたくなるのも、ふたりっきりの部屋だっつうのに、角挟んでくっついて飯食いたいと思うのも、眺めてるだけでもなんか楽しいのも、全部あんただけだ。 「たかっ、……」 　今日、何回押し倒したいのを堪えたと思ってんだ。 「あっ！　ン、ぁ、高雄っ、や、らぁっ……ン」 「要」 　舐めしゃぶられて、摘まれて、ツンと尖がった乳首が部屋の明かりに濡れて光ってるのが卑猥だった。 　ずぶりと下から突き刺さった熱に背中を反らして天井に甘い溜め息を吐く要の目尻には大きな雫がひとつ零れないようにって長い睫毛にしがみついて堪えてる。綺麗な涙に見惚れながら要の下半身に手を伸ばす。ぷるぷると気持ち良さそうに震えて、根元の辺りに薄っすらと生えている産毛をびしょ濡れにするほど泣きじゃくるペニスを握って扱いてやると、その涙の雫が留まることを諦めて、ピンク色の頬を転がり落ちた。 　腹っていうか、ペニスの付け根までピンク色。毛が薄すぎて、ほぼパイパン、素肌が丸見えの要が気持ち良さそうに腰を振っている姿は見ているだけで、股間が痛くなるくらいに興奮する。 　触れられなくても、痛いくらいに張り詰めて、興奮をその芯の中に詰め込んでいる。 「あ、あぁっ、あンっ、高雄っ」 　要は初の騎乗位に全身が火照ってピンク色に染まってる。自分でどうしたらいいのか考えられないのに、腰は気持ち良さそうにくねって、俺のペニスを軸にしながら上下、前後って気持ちイイと感じる場所に擦り付けて、それがまた要の理性と思考を消し飛ばして、また快感に貪欲になっていく。 　細いけど、どんなに華奢でも男なんだなって、俺の上で踊る要を眺めながら思った。男なのに、すげぇ、胸のところが切なくなる。 「要……」 　少しだけ重い。俺のペニスを根元まで飲み込んだ身体はちゃんと重いのに、それもすごく心地良かった。 「あぁぁぁっ！　ン、らめっ……中で高雄のがグリッて」 　上体を起こすと、粘膜に突き刺さったペニスがその切っ先で中を舐めるように擦ったのか、倒れ込みそうなくらい背中を反らせて、乳首を俺の目の前に差し出すような格好になって、新しく突き上げられた快感に身悶えてる。 「ひゃああっ」 　差し出すから素直にその粒を口に含んで、舌で転がすと、ペニスに猛烈にしゃぶりつかれて、こめかみの辺りにツーンと痛みが走った。乳首も口の中も敏感で、胸にくっついた粒を歯で齧ってみせても、指で舌をまさぐっても、俺のペニスを咥え込んだ要の身体は内側の粘膜で吸い付いて絡み付いてきた。意識が飛びそうなくらいに気持ちイイ。 「ぁ、あっ、高雄っ」 　大きく脚を開いて、その脚の中心は毛なんてほぼない肌色がびしょ濡れで、奥のやらしい孔にペニスを深く受け入れてるから、目がどうしたって釘付けになる。粘膜だけじゃなく、前で先走りを垂れ流して、俺の陰毛まで濡らすやらしく震えるペニスを見せ付けて、このセックスが気持ちイイって教えてくれる。 「要」 「ん、ンンっ、ぁ、あ、ン……高雄のっ」 　細い背中をやわらかくしならせて前に倒し、白く華奢な腕で俺の首にしがみついて、甘い喘ぎを溢す唇が唇に触れる。敏感な猫舌が突き出され、重ね合わさる唇を割り開いて。 「ん、ん、ンン、ぁ、ふ……高雄の気持ちイイ」 　ちゅぷ、って濡れた音が触れ合った身体のあっちこっちから聞こえた。 「俺も……すげぇ、気持ちイイ、要」 「ン、嬉しい」 　そう言って笑ったりすんなよ。 「あっ、ンっ！　ちょ、あぁぁぁっ深いっ、そこ、ぉ」 　そんな嬉しそうに微笑まれたら、明日からの連休中にあっちもこっちも、面倒なくらい遠くにだってふたりで出かけたいのに、明日一日、ベッドから起き上がるので精一杯なほどあんたを抱き潰しそうになるだろうが。 　そう思いながら、この人の奥に何度も熱の塊を押し付けて、流し込んでいた。