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第35話 まずいこと、したい。
マジで無理。なんなんだこの人は。デスクのところからさらうように連れ去ったけど、今度はトイレの個室に強引に連れ込んで、深く、濃くキスをした。
「ン、んんっ、高雄っ」
あんたなぁ……そうぼやいて溜め息すら、キスで繋がった貴方の喉奥へと消えていく。
――眼鏡、邪魔っ。
俺がそう言ったから、キスする時に自分の眼鏡が邪魔になるから、だからコンタクトにした、とか。
「ぁ、ンっ……た、かっ……ぁああっ」
ナニソレ、襲われるに決まってるじゃん。そんな可愛いこと言われて、冬休みの間ほぼ一緒にいて、満たされていたとしたって、襲うに決まってる。
人生初のコンタクトは慣れていないせいか、目がゴロゴロして少し痛むらしく瞳を潤ませてた。膨れっ面でそっぽを向いていたあんたが、理由はどうであれ、そんな濡れた瞳を真っ直ぐに向けて、キスするのに邪魔だというからコンタクトにしたんだ、なんて言われて我を失わない恋人なんていないだろ。ツボをゴッリゴリに押されて、止められるわけがない。
「あっ! 高雄っ、ダメっ」
ダメなのはそっちだ。コンタクトの花織課長は今日が最初で最後。明日からはまた眼鏡にしろよって言ったら「なんで?」とか言いやがった。ダメ、無理、不可能。
「要」
「ンっ」
抱き締めて、全身敏感なこの人に「今、すげぇ興奮してます」って伝わるように耳元で低く熱っぽく掠れた声で名前を呼んだ。
「高雄っ」
「……何?」
「今、ここは会社だぞ! まだ朝だし、それに、ここは、トイレ」
「無理」
何が無理なんだって怒った声が耳元で聞こえたけど、かまわず抱き締めて、ワイシャツでならたぶん隠れるだろう辺りの首筋を強く吸ってみた。吸われただけで甘い悲鳴。キスして抱き締めただけで、ズボンの中に突っ込んだ掌が濡れた。
「あんたも、無理なんじゃん」
掌で裏スジを撫でるように上から下へと擦れば、先走りに濡れて下着を汚してしまうと困ってた。
「ちょ、おい! 高雄!」
トイレで用を足すわけでもないのに下半身をむきにかかる俺の手を握って止めて困っている。いつ誰が入ってくるかもわからない、仕事の真っ最中なのに課長の自分がさぼってる。部下とこんなことをしてる。そんな罪悪感を握り締めながら、それでも貴方はやっぱりエロいよ。だって、ダメと言いながらこんなに先走りを溢れさせているんだから。
「だって」
こういう顔をした時のあんたは危ない。絶対に次に来る言葉は破壊力抜群に可愛くて、俺はきっと夢中になってこの人を貪ってしまう。
「だって、キスの邪魔にならないようにって」
そう思ったからコンタクトにした。俺とキスしたいなって思ったから、コンタクトに――なんて、こっちが蕩けるようなことを普通に話してしまう。用意していたのに、この人の可愛い発言の破壊力に木っ端みじんになる、そう予想していたのに、やっぱり身構えたところでこの人にやられるのは変わらなかった。
「あぁぁっ、ンっ! 奥、突いちゃ……ン、ん、ダメっ、だっ」
必死に唇を噛み締めて、トイレに響く喘ぎを堪えようとしても無理だ。トイレに個室からこんなに忙しなく布擦れの音がしてたら、誰だっていかがわしいことしか思いつかないっつうの。
「声、出ちゃうっ」
「っ」
涙をいっぱいに溜めたこの人が振り返っただけで、ゾクゾクッと勢い良く興奮が全身を駆け巡った。
「じゃ、口塞いでやる」
「んんっ」
キスした瞬間、ペニスを深く突き刺した奥からしゃぶりつかれて、キンキンに冷え切っていたはずのトイレの中でさえ汗ばむほどの快感に目が眩む。
寒い? なんて尋ねなくても、この人が今、寒さを全然感じてないのは、しっとりと濡れた肌でわかる。気持ち良さそうに身体をくねらせて俺のペニスを軸にしながら腰揺らして、肌蹴たシャツのところで見え隠れする乳首もツンと尖って綺麗なピンクを濃くしてた。
「んんんっ……っ、あぁぁっ!」
握り締めた要のペニスはびしょ濡れで、下腹部をその濡れた掌でまさぐると、粘膜がペニスのくびれにまで絡みつくから、本当にタチが悪い。
掻き分けるように奥を何度も突いて、捻じ込んで、それだけでも充分気持ち良くて頭がバカになりそうなのに、この人が俺のことを求めてくれるのが嬉しくて、全部暴いて曝け出して欲しくて、繋がった場所がよく見えるようにって、背中を反らして、掻き分けるように指で尻たぶを広げた。
「や、ぁ……見るな、ぁ」
眩暈がした。孔の口は赤く色づきながら、奥深くまで突いてくるペニスをぎゅっと締め付けてる。この、孔の中はうねるように絡みついて熱くて気持ちイイって、視覚で、舐めしゃぶられてる感覚で堪能して、腰を掴み直した。
「あぁんンンンっ」
堪えきれない喘ぎがトイレに派手に響かないようにって身体を前に倒して、深く捻じ込みながら、唇でも繋がって。
「ん、も、ダメっ、たかっ……ン……っ」
ダメだろ。会社で、年明け早々の朝、キンキンに冷えたトイレで立ちバックセックスとかダメだろ。
でも、要がキスの邪魔になるのならと目がゴロゴロして痛いとしてもコンタクトにしてくれだけで相当クルっつうの。それに。
「んんんっ高雄っ」
何より、営業の部屋に入って来た瞬間のあんたの表情がたまらなかった。荒井さんもきっと一瞬くらいは彼氏のことをすっかり忘れて、要に惚れたと思うくらい、可愛くて綺麗だった。
どこかに閉じ込めて、誰にも見せたくないくらいには魅力的だった。だから、本当に困る。
「高雄、も、ダメ、だ……イ、ってしまう」
言葉で、身体で教えてくれる。甘く孔の奥に吸い付かれて、本気で持ってかれそうなのを必死で堪えた。
「要っ」
「だから、もっと、キス、して欲しい、声」
声出ちゃうからって、つい今しがた課長だけが出席する会議で営業課の抱負を話しただろう声が俺のキスを欲しいってねだって、唇が触れた。営業課の目標をきっと宣言しただろう唇、舌に甘えるように唇を舐められて、止まれそうもない。
「ん、ンンンっ、ん、んんっ…………っ!」
齧り付くようにキスして、上でも下でも繋がって、絡まり合って、たまらなく気持ちイイ。
「んんんんんっ!」
熱くて、きつくて狭いのに、でも俺が深いところを突くと嬉しそうに絡み付いて抱き締めてくれる要の奥にゾクゾクするけど、でも、必死にそこから自身を引き抜いた。
「んっ、んんんんんっ」
上で、唇でセックスみたいなキスをしながら、この人の尻たぶに吐き出して、この人のを掌で受け止めると、要の唇が震えて、歯同士が小さくだけど、カチって音を立ててぶつかった。
「あ、高雄……」
甘えるように額を俺に擦りつけて、熱い溜め息を吐いてから、チラッとこっちを見上げた瞳がすげぇ、全身心臓になるくらい綺麗に輝いてる。やっぱ、無理だろ、コンタクトとか絶対に無理。
「ど、すんだ、こんな朝から、こんなことして、俺は課長、なのに」
「まずいだろうな」
課長が新年早々トイレで部下と立ちバック。
「だから、襲われないように、キスされないようにちゃんと眼鏡にしとけよ」
そう言ったら、口をへの字にして不満そうだった。キスされないようにすることが不満みたいに、ちょっと膨れっ面をしていた。
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