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第4話
「何でそんなに上機嫌なんだよ、気持ち悪い」
午後の金色の光が満ちる森の中を、エコバッグ片手に歩いた。当たり前のように黒谷は隣を歩き、どんぐりや松ぼっくりを拾い上げては、紅夜のエコバッグの中へ放り込む。
「今でも縛りをやってるの」
「ああ。相方はいない」
「そう」
「安心した?」
「何で安心なんか」
「久しぶりに縛ってやろうか」
「そんなの……」
いらない、と否定しようとした瞬間、森の中を風が吹いて、紅夜の肌を撫でていった。体温を奪われて肌が粟立ち、その瞬間に気が変わった。
「うん」
「紅夜、メシ食って帰ろう。いい店があるんだ」
職員用通用口を出ようとしたとき、哲から声を掛けられた。
「すみません、今日はちょっと」
紅夜の視線の先に黒谷の姿を見て、哲は眉をひそめた。
二の腕をぐっと掴んで引き寄せ、耳に唇が触れる近さで話す。
「……SMの人か?」
「あ、はい」
「脅されてるのか? 断れないなら、断ってやる」
「え? いえ、そんなんじゃありません。ただ久しぶりだから、ちょっと」
「そのまま縛られていいようにされたりしたら危ない」
真剣に話す姿に、紅夜は噴き出した。
「黒谷はプロの縄師です。そんなことはしません」
「わからないだろう」
「わかります。本当のプロは、強引なことや危険なことは絶対にしません」
お疲れ様でした! と笑顔で離れて、黒谷の元へ駆け寄った。
「……恋人か?」
「そうだよって言ったら?」
「別に。俺は痛くも痒くもない」
黒谷はさっさと歩き始め、紅夜は小走りにあとを追った。
紅夜は服を脱ぐと、静かな気持ちでベッドの上に座る。
黒谷は、紅夜の腕や足を掴んで関節の動きを確かめると、なめした麻縄を取り出して、両手を後ろに回させた。
左右の肘を掴むようにすると、手首に縄が掛けられる。
紅夜は思わず目を閉じた。黒谷の手の感触、静かな息遣い、体温。無心に縄を掛けて行く姿に、硬い蕾が開くような心地がした。
「痛みはないか」
そんな言葉も邪魔に思える。ただひたすらに、身体に縄が掛かっていく感触と、縄師・黒谷の姿だけを堪能していたかった。
身体が締められるほどに、紅夜は抱き締められるような安心感を覚える。
「はあっ、はあっ」
縄のすべてが黒谷の愛撫であり、抱擁に感じられた。
「気持ちよくなってきたか?」
「んっ、変……だよね……」
「別に。上手い縄を受けると、受け手は恍惚とするもんだ」
「変な道に足を踏み入れそう……」
「今さらだろ。昼間は真面目に働いて、夜はベッドの上で乱れるなんて、珍しい話じゃない」
ギチッと縄が締まると、紅夜は顎を上げた。
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