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第70話
翌日の朝は本当に慌ただしかった。
アラームをセットし忘れて、起きたのが逆算してタイムリミットギリギリだったのだ。
起きれただけよかったと思わなければ。
シャワーを順番にざっと浴びて、ホテルのモーニングを味わう間も無くかっ込み、急いで荷物をまとめてチェックアウトする。
息を切らしながら飛び込むように札幌発7:49のライラック号に駆け込んだ。
日向が悔しそうに
「あーーっ、ヤバかったぁ…なんで俺、アラームセットしてなかったんだろう…」
「日向のせいじゃないよ。
僕が寝る間際にぐずぐず言ってたから、セットし忘れたんだよ。
ごめんね、日向。
でも間に合ったからよかったね。
それで、どこに行くの?」
「ふふっ、旭川。」
「旭川って…ひょっとして『動物園』!?
うそっ、ほんとに?
…うれしいな…ありがとう、日向。
子供っぽいから連れて行ってもらえないと思ってた。
すっごくうれしい。」
「そう言うだろうと思った。
そこがこの旅行のメインだからな。
お前、修学旅行の沖縄で、目を丸くしてジンベエザメから離れなかっただろ?
鴨川は去年行ったから、今回は動物園で一番人気のここ。そのために北海道に決めたんだ。
毎年さ、二人で行くところ増やしていこうぜ。
お子ちゃまになっていいよ、瑞季。」
「日向…うん、ありがとう。
でもっ、一応、僕は成人男性だからねっ。」
ワザと膨れっ面で、プイッと窓に顔を向けた。
僕は家族旅行の記憶がない。
普通は家族で行く動物園や水族館、遊園地なんか行ったことがなかった。
旅行と言えば、修学旅行か、日向と行った一泊二日の旅行や近場で日帰りのプチ旅行ぐらいだ。
母は、未婚で僕を産んだ。
相手は同じ職場の上司だったそうだ。
認知はしてくれなかったけれど、僕が大学を卒業するまでは、きちんと養育費を払ってくれた。そのお陰で、僕は高校から一人暮らしをして大学にも行けた。
会ったこともないし、写真も見たことがないから、父親の顔も知らなかった。
子育てに興味のなかった母は、およそ親らしいことはほとんどせず、育児放棄に近い育て方をされた。
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