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第71話
だから、自分の置かれた環境や『他所の家とは違う』という自覚は幼い頃からあり、食事の用意や身の回りのことを当たり前にできるようになっていた。
頼る人もなく、母の手も誰の手も借りずに。
僕が高校を卒業する前日、突然呼び出された僕は、一枚の名刺を出されて彼女にこう告げられた。
「何かあったらここに連絡しなさい。
あなたの父親に繋がるから。
もう…私の役目は終わったわ。私は私の人生を生きることにしたの。
明日で『サヨウナラ』ね、瑞季。元気でね。」
やっぱり、この人にとって僕は必要のない人間だったんだ。
「お世話になりました…あなたもお元気で。」
それが最期の会話。
卒業式を終え、一応卒業の報告のために彼女の部屋を訪ねると、彼女の姿はどこにもなく、荷物も綺麗さっぱりなくなっていた。
あれから、何処でどうしているのやら、音信不通消息不明でわからない。
名刺の『父』とは、一度だけ、大学卒業の時に連絡をした。今までの養育費のお礼を言うために。
業務連絡みたいなその電話のやりとりは、彼にとっても僕は不要な存在だと再認識するに十分だった。
僕は日向がいなければ、きっと生きてはいなかっただろう。
『愛してる』と僕を抱きしめ、全身全霊で僕の存在を認めてくれる愛おしい伴侶。
僕が求める以上のものを無償で与え続けてくれる。
その名前の通り、堂々と日の当たる場所で育った彼は眩しすぎる。
どうして彼が僕を選んでくれたのか自信が持てなくて、日が経てば捨てられるのかと、いつでも不安が付き纏う。
けれど
一度あの心地良い温もりを知ってしまえば、もう離れることはできない。離れたくない。
一人ぼっちは、もう嫌だ。
依存している と言えばそうなのかもしれない。
誰でもいいか と問われたら、絶対に日向でないと嫌だ。日向しかいない。
僕は僕なりに精一杯の愛情で日向を包み、日向を 日向の家族を守りたい。
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