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第73話
レンタカー貸出の手続きや運転は日向がしてくれ、僕は子供のようにはしゃぐのを止められず、ずっと日向に話しかけ半分ウザがられながら…目的地に到着した。
「うわっ、すごい人…」
「さ、瑞季、行くぞっ!」
車の鍵を掛けた瞬間、僕の手を掴んで正門まで日向がダッシュする。
つんのめって転びそうになりながら、必死で足を動かして着いて行く。
あ…手…
いい年した男同士で手を繋いで走ってる。
周りの人が見たらどう思われるんだろう。
日向、いいの?
「はあっ、はあっ……へへっ、少しでも早く見せてやろうと思って焦っちゃった…」
「はっ、はっ、はあっ…もう、いきなりびっくりしたよ…でも、ありがとう。」
もう既に僕は胸が一杯だった。
新婚旅行に北海道を選んだ理由、『少しでも早くみせてやりたい』って思ってくれてること…全て僕のためだって。
子供の頃に経験出来なかったことを一つ一つ日向と一緒にできる…というか一緒にしてくれようとしてる。
なんかもう、泣きそうになってる。
きゅ と目を瞑って深呼吸をして、必死で涙を止め入場の列に日向と並んだ。
最初はフラミンゴが出迎えてくれた。
一本足でじっとしているだけじゃないんだね。イメージ的にはそうなんだけど。
うわっ、ユキヒョウ!キレイ…
トラもカッコいい!
猛獣って好きなんだよね…強くって凛として。
あ、ここにもいるけど。超猛獣。
痛いっ!もう、叩かないでよっ。
だって…昨日だって…
あ、ねえねえ、アザラシっ!
かっわいいー!あ、ここまで来てくれたよ。
おーーいっ!
狼だって!やっぱ犬みたいだよねぇ。
なんかグッタリしてない?
日向っ!シロクマ、シロクマだよっ!
うっわーーーっ!ダイブしたっ!!
人間の頭がさ、餌のアザラシに見えて捕食にくるんだってぇ!
いやーっ、このカプセルすごいっ!
うわっ、食われそうだって、こわっ。
入場して始めのうちは大人しく日向の斜め後ろを歩いていたけど、そのうち日向を置いて行く勢いで、夢中で園内を歩き回った。
日向は、そんな僕を にこにこしながら追いかけ、話し相手になり、僕の気の済むように自由にしてくれていた。
そして、時々ペットボトルの水を差し出しては、飲ませてくれていた。
その時はぜんぜん気が付かなかったけれど、後で考えたら、僕が熱中症にならないように、気を付けてくれてたんだろう。
自分でも呆れていた。
こんなハシャギっぷり、恥ずかしい。けど、楽しくって楽しくって。
『こども牧場』では、うさぎも抱っこした。
白くてあったかくてふわふわの子。
優しい気持ちになれる。
日向が「いいから抱っこしといで」って順番待ちしたけど…他の大人の人もいたから、抵抗なく出来た…これ、子供の中に大人一人って、超気まずいけどね。旅の恥はかき捨て。
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