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第162話

一気に話し合え、課長を見た。 慈しむような眼差しで僕を見つめると 「君の気持ちはわかった。 このことは、まーちゃんは知ってるの?」 「いえ。片岡課長に一番に伝えなくちゃと思って。この後伝えて退職届を提出します。」 「…そうか。 正直、君が抜けるのは会社にとっても痛い。 必要な人材だから、あの時も必死で食い下がって止めたんだ。 事情はわかったから、少し時間をくれないか? 君がまーちゃんに伝えた後、二人で相談するよ。 退職の話は保留にしてくれないか?」 「…はい。承知しました。 課長…すみません。僕、何もお返しできずに…」 膝の上に置いた手の甲に涙がポタリと落ちた。 目の前にスッとハンカチが出されて 「君は優しい子だから、何でも自分のせいにしたり、 受け止めたりしちゃうんだよね。 そこが長所であり短所でもあり。 もっと楽に生きればいいのに。まぁ、性格だから仕方がないか。 でもそういう風に大事に思われるお義母さんは幸せな人だね。」 差し出されたハンカチを頭を下げて受け取り、そっと目を抑える。 「…すみません。」 「ダンナさんは知らないの?」 「はい。相談したら反対されるから。」 「それでもちゃんと話しなきゃ。思い込みはダメだよ。 言ってもらえないほうが…傷付くこともある。」 ハッとした。

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