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第166話

夜中、物音を立てないようにそっと日向は帰ってきたらしい。 迂闊にも僕は泣き疲れて寝てしまっていてわからなかった。 アラームの音で目が覚めて、隣を見ると、確かに日向がいた痕跡はあるのに、姿がどこにもない。 夢の中で、何かが優しく頬や唇を撫でる感触があったのは覚えている。きっとそれは日向だったんだ。 「日向?日向、どこ?」 キッチンのテーブルに一枚のメモが置いてあった。 『瑞季、おはよう。 ぐっすり眠っているから起こさずに行くよ。 今日は早出なんだ。なるべく早く帰るから。 あ、ご飯、美味かったよ。弁当にも詰めさせてもらった。 行ってきます。 瑞季、愛してるよ。』 「起こしてくれればよかったのに。」 少し腹を立てて膨れてみても、構ってくれる本人はもういない。 ため息をついて、自分の支度に取り掛かった。 いつものように出社して席に着くが、まーちゃん課長がいない。 代わりに江嶋さんがテキパキと皆んなに指示を出し、纏めていく。 江嶋さんはくるくると誰かの席に行っては話をし、パソコンに向かい…ということを繰り返していた。 急ぎの仕事でもあるのかな? 僕の方は昨日仕上げてしまっていたから余力はあるんだけど。江嶋さんもそれは知っているはず。 なのに、なぜか僕のところへは来ない。 不思議に思いながらも午前中の勤務が終わった。

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