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第190話

涼香ママの体調が一進一退の状態が続いていたある日、 「ねえ、瑞季君、お願いがあるの。」 「涼香ママ、どうしたの?」 枕元に近寄って跪いた。 「そこの引き出し。上から二段目開けてくれる? 文箱があるでしょう? それ、持ってきてくれる?」 言われた通りに引き出しを開けて文箱を涼香ママの手元に持っていった。すると涼香ママは中のノートを取り出して 「これね、私のエンディングノート。 やりたいこと、伝えたいこと全て書いて、実行してきたの。 見て!やり終わったところは花丸付けてるのよ。 臣さんには見せたことないの。 あと、残りは二つだけ。一つは…もう時間がないから多分無理ね。 臣さんに言うと泣いちゃうから、あなたに託すわ。 瑞季君、最後のページは、あなたから臣さんに伝えてほしいの。」 そう言って涼香ママは僕にノートを手渡してくれた。僕はそれをしっかりと受け取った。 「最後のページ、見てちょうだい。」 最後? パラッ……ページを捲る乾いた音が響く。 僕は、そのページをじっと読んでいたが、 「涼香ママ…これ…」 「そう、書いてある通りにしてほしいの。 必要な所の許可は全部取ってあるから。 私の最後のワガママだけど許してね。 ノートも…私が旅立った後、臣さんに渡してほしいのよ。 それまでは瑞季君…あなたが持っていて。 私がやり遂げたことを見てほしい。 あなただから頼めるの。お願いできるかしら?」 そう言って力なく微笑む涼香ママは、すっかり痩せてしまって….僕は、細く筋の立った手をそっと包み込んで呟いた。 「はい…はい。必ず…涼香ママ ………」 見る間に潤んだ僕の目から、一筋の涙が溢れた。 涼香ママは、声なく涙を流す僕の頭を優しく優しく撫でていてくれた。

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