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第191話

ひとしきり泣いて落ち着いた僕は、涼香ママにハグをして、目も鼻も真っ赤にして部屋から出てきた。 この先、近いうちに大事な人を失う喪失感と、大切なものを預かった責任感とで押しつぶされそうになっていた。 いや、ダメだ。こんな弱気では涼香ママの側に最後までいられない。 しっかりしなきゃ。 何のためにここにいるのか。お世話をするということは、『看取る』ということ。 僕は覚悟を決めて姿勢を正してキチンと椅子に座り直し、大きく深呼吸した後、そのノートの1ページ目を開いた。 1.《日向と瑞季君の結婚式に出たい》 (大きな花丸とハートがたくさん…1番目のやりたいことだなんて…涼香ママ、こんなに喜んでくれてたんだ。) 2.《今 流行りのスイーツを食べに行きたい》 (花丸が3つ…あぁ、店名が書いてある。3件行ったんだな…その内の1件は僕も一緒に行ったな、パンケーキのお店だった) 3.《瑞季君に、日向の好きなレシピを教えたい》 (これはまだ身体の自由が効くうちに、秘伝のレシピをたくさん教わった。今ではメモを見なくても全部作れる) 4.《京都の老舗の旅館に泊まって観光したい》 (病気がわかってから、お義父さんとすぐ行ってたな。お土産をこれでもかというくらい沢山買ってきてみんなで大笑いしたっけ。) 5.《昔かじった程度の茶道と華道を習い直したい》 (これは、半丸だ…つい最近まで知り合いの先生が来てくれてた。僕も見よう見まねで教わってたんだ) 6.《朝陽のパートナーを見たいし結婚式にも出たい》 (そう言えば朝陽君、彼女の話も聞かないな…いつになったら連れてくるんだろう…これは何も印がない…『時間がないから』って、このことなのか…) …………………… そして 100.《私のお葬式には…》 涙が溢れて読めない。 滂沱と流れる涙を堪えることができず、ノートを閉じて思う存分…泣いた。 自分に迫り来る『死』を受け止めてここまで強く優しくできるものなのか… 涼香ママ、あなたは最高の妻で、母親で、姑で、素晴らしい女性(ひと)です…

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