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第192話

また金木犀が咲き誇る季節がやってきた。 窓を開けると姿はなくても、どこからかふんわりと甘やかな香りがしてくる。 あれから一年経ったのか。 すっかり馴染んだ薬指のリングを陽にかざしてみた。光を浴びてキラキラと輝くそれにそっと唇を寄せる。 僕達が結婚式を挙げてから、いろんなことがあり過ぎるほどで、あっという間に日が過ぎた。 ラブラブなのは勿論だけど、喧嘩もしたし、新たな日向が発見できた。 翔さんのお陰で僕は料理の腕を更に挙げ、峰君とレシピの交換をしている。 智君とは主にダンナ対策の相談をして実行するものの、相手の方が一枚上手で、毎回お互いに撃沈している。 仕事に関しては、片岡課長やまーちゃん課長、二課の面々のお陰で、在宅勤務も順調に進んでいる。 僕の報告書に社長も納得してくれていて、第二第三の在宅勤務者が希望を出しているそうだ。 涼香ママは… 段々と動くことも辛そうで、もうほとんど寝たきりの状態だ。でも毎日僕が行くのを楽しみに待っていてくれている。 今日は休みの日向と一緒に行くことになった。 「ねぇ、もうすぐ結婚記念日だね。」 「あぁ。何かお祝いしなくちゃな。考えとくよ。」 「…僕は日向と一緒なら、何もいらないよ。 食べたい物作るから、リクエストお願い。」 「瑞季…お前かわい過ぎてここで押し倒したい。」 「日向!ここ道路だから。変なことしないでっ!」 「冗談に決まってるだろ?」 そう言いつつも隙を見て、ちゅっと唇にキスされた。 「日向っ!!!」 あははっ と笑って逃げる日向を追いかけて捕まえ、ポカポカ殴ると、肩を抱かれてごめんごめんと誤魔化される。 ぶすっと膨れたまま、実家に着いた。

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