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第205話
日向の隣にちょこんと座ると、ぎゅっと抱きしめられた。
「ちょっと…日向、離れて!」
「…瑞季が足りない…補充させて…」
甘えるように抱きついてくる日向を無下に突き放すことができず、正直僕もそうしてほしくて…誰も来ないことを祈って日向のしたいようにさせた。
足音が聞こえ、慌てて離れた途端に朝陽君が現れた。
「あれれ?お邪魔だった?」
「…別に。瑞季不足を解消してただけだ。
一応離れてやったぞ。ひとり者のお前には目の毒だからな。」
二人は笑っていたが、僕は恥ずかしくて真っ赤になり俯いていた。
ひとしきり大笑いした朝陽君が急に真面目な顔になって
「なぁ、瑞季。」
「ん?何?どうしたの?」
「お袋のこと…本当にありがとうございました。」
正座をしてキチンと頭を下げられた。
「え?ちょっと止めてよ。そんなこと…僕がしたくてやったことなんだから。」
「いや、俺達ではお袋の面倒を診るのは初めから無理だった。
家事なんて一切できないし、時間的にもな。
それを埋めてくれたのが瑞季、お前なんだよ。
あのお袋が俺達以上に心を開いて頼りにしたのはお前だったんだ。
エンディングノートもお前がいたからやり切ることができたんだ。あ、俺のこと以外でな。
とにかく…感謝している。
本当に…ありがとう…」
朝陽君の目からぽろりと涙が零れ落ちた。
それを見たらまた泣けてきて…
横から手を伸ばしてきた日向に抱き込まれて、僕は枯れることのない涙を流し続けた。
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