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第206話

翌日、お通夜と同じく大勢の人達がお別れに来てくれ、それでもお葬式も滞りなく淡々と進行し無事に終了した。 まだぼんやりとしたまま火葬場へ向かう車に乗り込むと 「大勢の人からさ、 『不謹慎ですけど素晴らしいご葬儀でした』 『ご立派なご挨拶でした』とかさ 『感動してその場にいた皆さん、泣いてらっしゃいましたよ』 とか言われた。みんな所詮人ごとなんだよな。」 などと日向と朝陽君が話していた。 お義父さんは位牌を抱きしめて、ちょっと拗ねたように呟いた。 「そんなことで褒められてもちっとも嬉しくもないし、なんの感情も起こらないよ。」 みんなに頼まれて涼香ママの遺影を抱えた僕は黙ったまま窓の外を眺め、時折額縁を撫でていた。 街の風景はいつもと変わりなく、少し窓を開けた隙間から、金木犀の香りがふんわりと漂ってきた。 この香りの季節が巡る度に、僕達はうれしい結婚記念日と悲しい涼香ママの命日を迎えて複雑な気持ちになるんだろうな… 最後に見た涼香ママは… 薄化粧を施され赤いバラで埋め尽くされ、微笑みをたたえた顔は美しく、僕達はまた涙が溢れてきた。 「お袋、ありがとう」 「お袋の分も俺達幸せに長生きするから。」 「涼香ママ、ありがとうございました」 「涼香、ゆっくり休んでちょうだい。」 「涼香、あの世で幸せになるんだぞ」 「涼香、ありがとう。愛してるよ。」 それぞれに名残惜しく別れの挨拶を終え、お義父さんは愛おしげに頬を撫でそして優しくキスをすると、涼香ママは重たい扉の中に消えていった。 数十分後、呆気なく小さな骨だけになった涼香ママを家族で骨壷に収めていく。 一つずつ、一つずつ。 かさり、ことんと。 思い出を手繰り寄せるように。

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